お隣の測量について境界確認の立会が終わり、筆界確認書という書類が送られてきて、署名・押印をお願いされた。
その書類には「筆界」・「境界」と2つの言葉が使われている!
2つの言葉はお隣との土地の境い目とイメージが湧くが、何が違うのか、筆界確認書に署名・押印して良いのか躊躇していませんか。
この2つの言葉は似ていますが似て非なるものです。使いどころを間違えると大変なことになります。
土地の境い目で登記により公示されていると「筆界」、それも含め土地の境い目全般を「境界」と言い、2つの言葉は異なるのです。この違い、我々専門家も慎重に選んで使用しています。
そこで、今回は境界の専門家である土地家屋調査士がその違いについて、詳しく分かりやすく説明致します。
この記事を読み終われば、同じ土地の境い目でも「筆界」・「境界」の違いが手に取るように分かるはずです。
目次
1 筆界と境界の違い
筆界と境界には厳密には意味が異なります。この2つにはどのような違いがあるか解説していきます。
1-1 筆界と境界の違い
土地の境い目で登記により公示されているものを「筆界」、それも含め土地の境い目全般を「境界」と言います。
従って、この2つは意味が異なるのです。
境界=土地の境い目全般を表す
具体的には、地積測量図という図面を作成し、登記所に提出して登記を行うと、公示される地図(下図)に「筆界」が記録されます。
・・・本記事で言う「登記された境界」とは、不動産登記法制定前の、明治時代の地租改正条例制定時の原始筆界~以降、登記簿が出来る以前の分筆のことまでも含みます。
(地積測量図)
(地図)
1-2境界、筆界、所有権界の関係
「境界」は「筆界」を意味するだけでなく、「所有権界」を意味する場合もあります。
「境界」「筆界」「所有権界」の関係をまとめると次の関係図になります。
(境界、筆界、所有権界の関係)
(境界、筆界、所有権界の例)
「所有権界」という言葉が出て来ましたが、これは登記されていない合意等に基づく境界です。
同じ「境界」のはずなのに、異なる線で「筆界」と「所有権界」の2つが存在することがあります。「筆界」「境界」が一致しないケースです。このように「筆界」と「境界」が一致してないケースでは、トラブルが発生しやすくなります。
1-3では、次の図を使ってそのケースを説明します。(黒と白が交互になっているシマシマの線はブロック塀を表しています)
(境界=筆界(左、上)、境界≠筆界(右))
1-3 筆界と境界が一致しないケース
図の左(1-1と1-2の間)と上(1-1と1-4の間)は既に登記された境界「筆界」(図では境界(筆界)線)に対して、同じところにブロック塀が設置されています。「筆界」と「所有権界」が同じであり、「境界」は「筆界」で認識が一致します。
しかし、図の右(1-1と1-6の間)は「筆界」(図では境界(筆界)線)に対して、異なるところにブロック塀(図では所有権界)が設置されています。お隣(1-6の土地所有者)は、このブロック塀を「境界」と思い込んでいる。「筆界」と「所有権界」は異なり、「境界」は異なる線で「筆界」と「所有権界」の2つ存在してしまっています。「境界」は「筆界」として認識が一致しません。
この状態では、お隣(1-6の土地所有者)は、網目部分(図では境界(筆界)線と所有権界の間)が自分の土地と信じており、トラブルに繋がる可能性があります。「2筆界と境界の違いによるトラブル」で紹介します。
この当事者間での認識により生じた所有権界を「筆界」とする方法、また分からなくなってしまった元々の「筆界」を探し出す方法により、「境界」は登記により公に公示された「筆界」とすることが出来ます。「3筆界と境界を一致させる方法」で紹介します。
(境界=筆界(左、上)、境界≠筆界(右))
2 筆界と境界の違いによるトラブル
「境界」が異なる線で「筆界」と「所有権界」の2つ存在してしまうケースがあります。このケースでは「境界」は「筆界」として認識が一致しません。
この状態では、お隣は、「筆界」とは異なる部分が、自分の土地と信じてしまい、トラブルに繋がる可能性があります。
認識のずれとして下記のような事例があります。
・ブロック塀の工事費用の負担の有無による、ブロック塀の設置位置を基準とした境界の見解の食い違い
・境界標(境界を示す印)と異なる位置の使用についての口約束による、境界の見解の食い違い
・建物図面の土地を指す位置による、境界の見解の食い違い
詳しくは「境界線トラブル」リンクでまとめています。ご参照下さい。
3 筆界と境界を一致させる方法
「境界」が異なる線で「筆界」と「所有権界」の2つ存在してしまうケース、「筆界」自体が不明となってしまっているケースがあります。これらのケースでは「境界」は「筆界」として認識が一致しません。
この状態を解決する方法として、筆界と境界を一致させる方法3つを紹介します。
(筆界と境界を一致させる方法)
3-1 分筆・合筆登記
1つ目の方法が、分筆登記の後に、合筆登記をする方法です。
簡単に言いますと、「筆界」と「所有権界」が一致していない土地を、その境い目で2つの土地に分けた後(分筆登記)に、再び1つの土地として登記(合筆登記)すれば、「筆界」と「境界」を一致させることが出来ます。
過去の判例ではそのように扱うこととされており、これに沿った方法です。
分筆登記については、「分筆とは?安全確実な登記方法について土地家屋調査士が徹底解説!」リンクでまとめています。
合筆登記については、「合筆登記とは?あなたの土地の管理をラクにする方法」リンクでまとめています。それぞれご参照下さい。
具体的な手順として、「1.筆界と境界の違い」で使用した図に沿って説明します。このケースでは、1-1の土地の一部がブロック塀(所有権界)を越えているため、超えている部分を1-6の土地所有者に譲渡します。まず1-1の土地をブロック塀で分けます(分筆)。そして、その部分(1-1’の土地)の所有権を1-6の土地所有者に変更したのち、1-6の土地に合わせます(合筆)。これにより、「筆界」はブロック塀(所有権界)に形成され、「境界」は「筆界」として認識が一致することとなります。
(登記による手順)
3-2 筆界特定制度
筆界特定制度を利用することで元々存在する「筆界」を探し出すことが出来ます。
筆界特定制度については、「境界線トラブルもこれで解決!筆界特定とは?筆特をわかりやすく解説」リンクでまとめています。ご参照下さい。
「筆界」が分からなくなってしまったため、お隣と異なる「所有権界」で意見が対立してしまっている。そんなときに、筆界特定制度が活用されます。
ただし、相手がその「筆界」に納得せず、3-3の筆界確定訴訟を利用し、判決内容の「筆界」が異なる位置となった場合には、筆界確定訴訟が優先されます。
筆界特定制度により探し出した「筆界」をお隣に説明し、納得してもらえれば「境界」は「筆界」として認識が一致することとなります。
網目部分で土地1-1と土地1-6の意見が対立
3-3 筆界確定訴訟
筆界確定訴訟を利用することで、裁判により「筆界」を決めることが出来ます。
「筆界」が分からなくなってしまったため、お隣と異なる「所有権界」で意見が対立してしまっている。3-2の筆界特定制度と同様のケースですが、筆界確定訴訟の利用により解決を図ることが出来ます。
判決内容により双方の「境界」は「筆界」として認識が一致することとなります。
(筆界特定制度、筆界確定訴訟の違い)
(網目部分で土地1-1と土地1-6の意見が対立)
4 まとめ
今回は「筆界と境界の違い」について書き出してみました。
土地の境い目で登記により公示されているものを「筆界」、それも含め土地の境い目全般を「境界」と言い、この2つの言葉は意味が異なることを紹介しました。また意味のことなるこの2つは通常一致しますが、一致しないケースがあり、その場合のトラブルと対処方法もご紹介しました。
それだけ、「筆界」「境界」この2つの言葉は、しっかり理解し適切に使用しなければいけません。我々専門家も慎重に選んで使用しています。
「筆界」と「境界」の違いを認識して、トラブルを未然に防ぐのに役立てて頂ければ幸いです。
最後までお読み頂き有難う御座いました!
我々土地家屋調査士法人えんは、思い出の詰まった土地を守り、後世につないでいく、そのような想いを持って日々の業務を行って参ります。ご所有の土地について相談したいことが御座いましたらお気軽にお問合せ下さいませ。
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