未登記だった建物を相続したものの、「このままでは売却できないですよ」と言われても、今後どうしていったら良いのかよくわからないですよね。兄弟姉妹間での話し合いが面倒で、未登記建物を相続したまま放置してしまうと、売買できない、建築の為のローンが組めない、所有権の登記ができないなど、デメリットがたくさんあります。
未登記建物を相続した際の通常の流れは、3つのステップがあります。
遺産分割協議を相続人間で行い、①遺産分割協議書の作成を行います。その後、所有権を証明する書類などを集め、土地家屋調査士へ依頼して②建物表題登記を行います。最後に、司法書士へ③所有権保存登記を依頼すれば、やるべきことは全て完了です。
手順通りに手続きを進めていけば難しいことはないのですが、自分で行うには少しハードルが高くなります。書類作成などに慣れていない方は、専門家に任せて進めて行くのがよいでしょう。
相続した建物を放置したらどうなるかですが、放置したら管理責任を放置したことによる土地の固定資産税増加や、空家等対策特別措置法に基づく命令違反による50万円以下の罰金が課される可能性があるなどデメリットが多いです。メリットは手続き費用や手間がかからないということぐらいかもしれません。
本記事では、未登記建物を相続した際にやるべきことを登記手続きの観点から、表示に関する登記の専門家である土地家屋調査士が徹底解説いたします。
目次
1 未登記建物を相続した場合にやるべきこと3つのステップ
未登記建物を相続した場合にやるべきことは、遺産分割協議書の作成です。相続人が何人かいる場合、建物は一時的に共有状態になりますので、誰の建物なのかを相続人間で話し合いはっきりとさせる必要があるからです。
誰の持ち物なのかがはっきりしたら、建物表題登記、所有権保存登記の流れで進めていきます。登記をすれば、国の制度により、「この建物は私のものです」ということを誰に対しても主張できるようになります。
各手続きの詳しい内容について解説します。
1-1 遺産分割協議書を作成する
依頼内容 | 依頼する専門家 | 費用の一例 | 期間の一例 |
相続人の調査 遺産分割協議書の作成 | 弁護士,司法書士,税理士,行政書士 | 数万~数十万 *内容で変動 | 平均2~3か月 *状況で変動 |
未登記建物を数人で相続することになれば、原則、遺産分割協議書の作成を行います。
なぜなら、相続人が何人かいる場合、建物は一時的に共有状態になりますので、誰の建物なのかを相続人間で話し合いはっきりとさせる必要があるからです。
遺産分割協議書の作成には、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。
一般的には弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの専門家に作成、相続人間のとりまとめなどを依頼します。依頼はどの専門家に依頼しても構いません。
遺産分割協議書が不要になる場合は下記のような場合です。
【遺産分割協議書が不要となる主なケース】
その他、遺産分割調停などで相続割合が決まった場合も遺産分割協議書は不要です。
ケースバイケースですので、未登記建物に限らず他の遺産もある場合には専門家に相談した方がよいでしょう。
相続人の調査、戸籍遺産分割協議書の作成や費用については、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの専門家に相談します。
遺産分割協議書の作成費用は遺産の額や相続人の人数によっても変動します。費用の一例としては数万円~数十万円程度です。遺産が数億、数十億にもなると100万単位の費用がかかる可能性もあります。
遺産分割協議書の作成にかかる期間は、相続人も少なく、話し合いもスムーズにできるごく一般的な平均で2~3か月で、相続税の申告期限である10か月以内に行われることが多いでしょう。相続人が多い場合や、揉めている場合には数年かかる可能性もあります。
1-2 建物表題登記をする
未登記建物を相続し、遺産分割協議書の作成を行ったら、下記の流れで建物表題登記を行います。
なぜなら、建物表題登記は不動産登記法で義務とされているからです。この登記をすることにより「この建物は私のもの」ということが登記制度により守ってもらえるからです。登記手続きの最初のステップが建物表題登記です。
未登記建物を登記することの詳細については下記の記事を参考にしてください。
「未登記とは未登記建物の表題登記について専門家が徹底解説!」
【未登記建物を相続後に建物表題登記する手順】
建物表題登記は自分で行うにはハードルが高いです。
特にCADソフトを使用しての図面作成や所有権証明書をどこからどこまで集めたらよいかなど、一般の方では対処できないことが多いでしょう。
法務局へ相談や書類の不備に伴い何度も法務局や関係各所と協議する必要が生じるなど煩雑になります。
未登記建物を相続したら土地家屋調査士へ依頼するのが一般的となっています。
【建物表題登記にかかる費用と期間】
150㎡程度の一般的な家屋で15~20万円程度です。所有権証明書や図面の有無によっても前後します。
登記完了までの期間は、2~4週間程度を見ておけばよいでしょう。
1-3 所有権保存登記をする
未登記建物を相続し、建物表題登記を行ったら、所有権保存登記を行います。
なぜなら、この登記は第三者に対して「この建物は私のもの」と主張することができる登記であるうえ、今後の売買や相続、抵当権の設定など権利の登記の前提となり権利変動に必要な登記だからです。
【所有権保存登記する手順】
所有権保存登記は自分で行うこともできます。専門家へ依頼する場合は司法書士へ依頼します。
書類作成に慣れている方や、法務局へ行く時間が取れる方は自分で行ってもよいでしょう。
自分で行う場合は、法務局へ相談や書類の不備に伴い何度も法務局へ行くために何時間も使ってします可能性がありますので、自分の時間と専門家へ依頼したときの費用のバランスを良く検討をする必要があります。
未登記建物を相続したら建物表題登記と所有権保存登記を土地家屋調査士及び司法書士へ一連の流れで依頼するのが一般的となっています。
【所有権保存登記にかかる費用と期間】
150㎡程度の一般的な家屋の報酬で数万~10万円程度+登録免許税です。未登記家屋の固定資産税価格、建築年数、専用住宅かどうかによっても登録免許税を含め費用が前後します。
登記完了までの期間は、2週間程度を見ておけばよいでしょう。
建物表題登記と所有権保存登記についての詳しい解説は下記の記事を参考にしてください。
土地家屋調査士が解説!建物表題登記と所有権保存登記の違いについて
コラム:建物を解体をしたら建物滅失登記をしましょう
未登記建物を相続し、建物を解体したら、建物滅失登記を行います。
なぜなら、建物滅失登記は不動産登記法で義務とされているからです。
建物を解体すること自体は100万前後から場合によっては数百万かかることもあります。構造・延床面積や、アスベストの有無などによっても変わってくるでしょう。
解体が完了した後には、建物滅失登記を申請します。滅失登記は申請義務がありますので解体が完了したらすぐに申請しましょう。
依頼内容 | 依頼先 | 費用の一例 | 期間 |
建物解体工事 | 解体業者、建設会社 | 100万~数百万 *規模などで変動 | 1か月~数か月 *規模などで変動 |
建物滅失登記 | 土地家屋調査士 | 5万前後 | 1~2週間 |
建物滅失登記の詳しい解説については下記の記事を参考にしてください。
2 未登記建物を相続後に放置した場合のデメリット
未登記建物を相続後に放置した場合のデメリットは、過料に処せられたり、売却できなかったり、固定資産税が増加してしまう可能性があることです。
放置して何かメリットがあるかと言えば、手続費用がかからないということですが、デメリットの方が大きいと考えられますので注意が必要です。
2-1 過料に処せられる
未登記建物を相続後に放置した場合、過料に処せられる可能性があります。
下記の通り、不動産登記法第164条に規定されています。
第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
実際に過料に処せられたという話は聞きませんが、相続した不動産を登記しないまま放置することについて民法・不動産登記法の改正も2021年にあり、罰則も強化されていますのでいつ課せられてもおかしくありません。
2-2 売却できない
未登記建物を相続後に放置した場合、その建物を売却できない可能性があります。
なぜなら、建物を売却する時は、不動産登記で買主へ所有権移転登記をしますので所有権移転登記をするには、登記簿が作成されていなければならないからです。
建物を相続したら、遺産分割協議して建物表題登記、所有権保存登記をすることによって売却可能になるのです。ここまでやらなければ、建物は売却できません。
2-3 固定資産税の増加
未登記建物を相続後に放置した場合、固定資産税が増加する可能性があります。
なぜなら、空き家対策特別措置法において、国土交通省が示す基本指針において、特定空き家と判断されれば、固定資産税における住宅用地の特例が適用されなくなる可能性があるからです。
住宅用地の特例が適用されなくなると、土地の固定資産税・都市計画税が増加することになります。
さらに、倒壊の恐れがある場合などは、命令、行政代執行による解体、50万円以下の罰金などの強い措置が行われる可能性がありますので注意が必要です。
コラム:共有での相続
不動産相続した場合を兄弟姉妹の法定相続割合に沿って共有持分で登記することが多いのではないでしょうか。
共有不動産のままずっと放置しておくと、いざ土地や建物を売却しなければならない状態になった際でも、すぐに動くことができないため注意が必要です。
共有物を処分しようとする際は共有者全員の同意が必要になるからです。一旦は共有で登記をした場合でも、将来に備えて、土地・建物共に共有物を分割する準備を進めた方がよいでしょう。
もちろん、共有のまま兄弟姉妹で意思統一して処分や管理をしていくということであれば問題はないのですが2次相続が発生してしまうと今後は甥や姪が登場し、いとこ同士での話し合いに発展するなど、権利関係がややこしくなることが想定できます。
不動産は兄弟姉妹で話ができる段階で、分割しておくほうがよいと考えられます。
3 まとめ
未登記建物を相続した場合にやるべきことは、遺産分割協議書の作成、建物表題登記、所有権保存登記です。
【未登記建物を相続した場合にやるべきこと3つのステップ】
【未登記建物を相続後放置した場合のデメリット】
未登記建物を相続後に放置した場合のデメリットは、過料に処せられたり、売却できなかったり、固定資産税が増加してしまう可能性があることです。
相続した建物を単独相続する場合でも、兄弟姉妹で共有することにした場合でも、そのまま何も登記せず放置していても良いことは一つもありません。
登記の有無にかかわらず固定資産税は取られますし、管理が行き届かなくなれば、増税や強制解体、50万円以下の罰金に課される可能性だってあり得ます。
未登記のままであれば、デメリットの方が大きいと考えられますので、手続きの内容を確認して、一歩一歩進めていきましょう。
未登記建物は登記をしておくことで、今後の売却や二次相続にも備えることができます。
是非、この記事を参考にして相続した未登記建物を安心安全な不動産に変えましょう。