日本のみならず世界中で大災害が発生しています。
ネット等では南海トラフ地震、首都直下型地震、富士山の噴火等が話題になっており、大地震や土砂崩れなどの大災害で自分の土地や親の土地はどうなってしまうのか?
起こる前にやっておく対策はないのか?
と考えられている方は少なくないと思います。
前回の東日本大震災でもっとも大きく動いた電子基準点は、宮城県石巻市にある「牡鹿(おしか)」で、その動きは東南方向に5.3mの水平移動、上下方向でマイナス1.2mの地盤沈下だそうです。
( 出典 : 内閣府 みちびきニュース より )
火災保険や地震保険で災害に備えましょう!というのは当然です。
しかし、地震で境界がずれてしまった場合や土地の一部が崩れてしまった場合、土砂が流れ込んできてしまった場合、自分の土地の範囲がわからなくなってしまいます。当然これは保険ではどうにもできません。
自分たちの大切な財産である「土地」を守るためには測量と登記は非常に重要です。
この記事では、大地震、土砂崩れ・・大災害からあなたの土地を守るために必要な対策とは【測量・登記編】を土地の境界の専門家である土地家屋調査士がわかりやすく解説します。
目次
1 災害被害にあった土地はどうなる?
大地震や大災害によって土砂崩れなど土地の一部が崩れてしまったり、境界がズレてしまった場合でも土地は守られます。
【土砂崩れでなくなってしまった場合】
土地の一部が上の写真のように土砂崩れで一部なくなってしまった場合、土地の面積が減ってしまうように感じると思いますが、不動産登記規則第100条で土地の面積は水平投影面積によって求めるとされています。
水平投影面積とは、土地を真上から見たときの面積で、土地に凸凹や斜面の部分があっても、その土地が水平だとして測った面積のことを言います。
地積は、水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、一平方メートルの百分の一(宅地及び鉱泉地以外の土地で十平方メートルを超えるものについては、一平方メートル)未満の端数は、切り捨てる。
【地震によって境界(筆界)がズレた場合】
地震によって境界(筆界)がズレてしまった場合はどうなのでしょうか?
境界(筆界)は、判例で「客観的に固有なもの」とされています。(最裁昭和31年12月28日)わかりやすく言えば動かないものとされています。
しかし、平成7年1月17日に発生した阪神淡路大震災では境界がズレてしまいました。
実際にズレているのに境界(筆界)は客観的に固有なもの(動かないもの)はどう考えてもおかしいです。
誰が考えておかしいので法務省は通達で、地震による地殻変動に伴い広範囲にわたって地表面が水平移動した場合には、土地の筆界も相対的に移動したものとして取り扱うという処理をしました。
原則土地の境界(筆界)は動かないものであるが、例外的に動くこともあるということを認めたということです。
【まとめ】
災害の種類 | 守られる考え方 |
一部土砂崩れ | 水平投影面積 |
大地震によるズレ | 相対的に動いたものとする |
このように、大地震・大災害を原因として土地が現実として、一部土砂崩れしたり、ズレたりしても、『①水平投影面積』『②相対的に動いたものとする』という2つの考えから守られるのですが、次章の対策をしておかなければ、正確な位置を主張することができなくなってしまうのです。
2 事前にしておきたい対策:土地地積更正登記
2-1 対策は土地地積更正登記が重要
自分の土地を守るためにしておくべき対策として、「土地地積更正登記」をすることが重要です。
土地地積更正登記を申請すると登記簿(土地全部事項証明書)が正しい面積(地積)に更正され、地積測量図が法務局に備え付けらえます。(法務省のサーバーにアップロードされる)
この地積測量図を法務局へ備え付けておくことが自身の土地を守ることになる方法だと考えられます。
2-2 土地地積更正登記の効果
①登記簿(全部事項証明書)の面積が正しくなる
土地地積更正登記を行うと登記簿(土地全部事項証明書)の面積が正しく直されます。
昔から相続してきた土地など、正しい面積で登記されている土地はそれほど多くはないからです。
多くの方が自分の土地の面積(地積)は登記されているから大丈夫と思っている方が多いのではないでしょうか。
それぞれの土地には登記簿(全部事項証明書)が存在し、そこには土地の所在・地番・地目・地積が記載されています。
確かに直近で分筆登記がされた土地や地積更正登記のされた土地は正しい面積ですが、登記簿が作成された時から土地の分割等を行なっていない土地や分割は行なっているがそれが昭和の時代の場合には正しい面積とは言えないことがあります。
なぜ違うのかですが、そもそも登記簿が作成された時に記載された面積は明治時代の地租改正の際の面積がそのまま使われているからです。
(明治時代の土地台帳)
現在と比べて測量機器や測量技術は劣りますし(縄で測っていた)、課税を低くするために過小申告がされていたとも言われています。
地租改正は、新政府の財政基盤を確立するために実施されました。地租は、地券を交付して一律に課税する方式で、江戸時代に地子(年貢)を免除されていた武家地や町地なども課税の対象となりました。
地租改正事業は、明治6年の地租改正法の公布により着手され、同8年の地租改正事務局の設置以降本格的に進められ、同14年にほぼ完了しました。これにより土地の所有権が公認され、地租は原則として金納となりました。当初の地租は地価の3%で、後に2.5%に減額されました。
大地震・大災害が起きた後で、自分の土地の範囲が分からなくなってしまった時に、自分の土地の正しい面積が主張できません。
自分の土地の面積正しくしておきましょう。
②地積測量図が備え付けられる
土地地積更正登記を行うと上図のような地積測量図が法務局に備え付けられます。
平成17年3月7日~地積測量図は世界測地系により測量が行われて境界(筆界)点の座標値も記載されているので現地復元性がある地積測量図と言われています。
平成17年に不動産登記法の改正があり、不動産登記規則第77条で地積測量図の作成は基本三角点等に基づく測量により筆界点の座標値を記載することになり現地復元性が高まりました。
また、地積測量図は、法務省のサーバーに記録され、災害に備えてデータをバックアップすることになっていますので、大津波が来て法務局ごと流されたとしても、地積測量図に記載された座標値を復旧することができます。
境界(筆界)の復元の詳細は、「見えない境界を見える化する、境界標復元とは何か?徹底解説!」をご参照ください。
3 土地地積更正登記の手続き方法
土地地積更正登記の手続き方法を詳しく解説したいと思います。
土地地積更正登記は、土地の面積(地積)を正しい面積(地積)にする登記で、土地の所有者(共有の場合は一人からの申請でも可)から申請します。
土地地積更正登記を申請するためには、土地の境界を確定する必要があるので土地境界確定測量と同時に行う必要があります。
土地境界確定測量の詳細は、「確定測量とは?なぜ必要なのかについて土地家屋調査士が徹底解説」をご参照ください。
下記で土地地積更正登記手続きの流れを図示していますので確認してください。
土地家屋調査士に依頼した場合の地積更正登記手続きの流れ
STEP① 土地家屋調査士に依頼
土地地積更正登記の申請代理人は「土地家屋調査士」となります。
個人での申請も可能ですが、測量やお隣との境界確認等がありますので通常は代理申請となります。
土地家屋調査士は、土地家屋調査士法第1条で不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家とされています。
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もって国民生活の安定と向上に資することを使命とする。
土地地積更正登記を申請するには測量をしてお隣さんと境界(筆界)の確認をして土地の境界(筆界)を確定させ地積測量図を作成するという個人では非常に難しい要素が多いですので土地家屋調査士に依頼してください。
STEP② 資料収集
資料収集は、非常に重要な業務の一つで、測量をするポイントの参考にしたり、測量した結果を計算により境界を特定する際の根拠として使用します。
資料とは、法務局や国、都道府県、市区町村等に保管されている図面等のことを言い、具体的には公図や地積測量図や道路、水路等の図面を言います。
STEP③ 測量
土地地積更正登記を申請するためにはすべての土地の境界(筆界)を確定させていきます。
境界(筆界)は自分の土地とお隣の土地との財産界になる重要なものです。
自分が勝手にここでいいという判断はできません。
収集した資料に基づきしっかり現地を測量していきます。
地積更正登記に添付する地積測量図は不動産登記規則第77条で原則基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値を記載することになっています。
簡単に言えば、世界測地系(世界で通用する座標(位置))ということです。
この座標系が震災や災害の時には活きてきます。
測量は、GNSS測量機やトータルステーションを使用していきます。
GNSS測量機の詳細は、「GNSS測量を専門家が徹底解説!世界測地系で安心安全な土地へ」をご参照ください。
STEP④ 計算
測量した結果を収集した資料と照らし合わせて境界の特定をします。
「ここに境界石があるからここが境界」という特定の仕方ではなく、様々な角度から境界点を導き出していく作業となります。
筆者は、この作業をジグソーパズルのピースを一つずつ当てはめていく作業と言っています。そのくらい慎重で大切な作業です。
STEP⑤ お隣との境界立会い
境界の立会いの流れは下記のとおりです。
土地家屋調査士がお隣の所有者と境界の立会いを行い、どのような根拠で境界を特定したのかを説明して境界確認をしてもらいます。
その後、確認した境界点に境界標を設置して筆界確認書を取り交わします。
境界の立会いの詳細は、「境界の立会いを依頼された。立会いは必要?土地家屋調査士が解説!」をご参照ください。
筆界確認書の取交しの詳細は、「専門家が解説!筆界確認書に署名・押印することの意味」をご参照ください。
STEP⑥ 土地地積更正登記申請
土地地積更正登記を申請します。
土地地積更正登記の申請人は土地の所有者となります。(申請代理人は土地家屋調査士)
(土地が共有の場合は、共有者の一人から申請できます。)
代理人からの申請の場合の法定添付書類は、代理権限証書(委任状)と地積測量図ですが、実務上はお隣と取交わしをした筆界確認や道路等の境界が確定していることを証する図面等を添付するほか、土地家屋調査士が現地をしっかり測量、調査したことを法務局に対して報告する不動産調査報告書を添付します。
STEP⑦ 登記完了
通常、土地地積更正登記を申請して1週間~2週間で登記が完了します。
(管轄法務局の混雑状況によって前後はあります。)
土地地積更正登記が完了すると全部事項証明書(登記簿)の面積が更正され、地積測量図が法務局に備え付けられます。
下記、全部事項証明書のように古い面積に下線が引かれ新しい面積が記載されます。
また、登記原因及びその日付欄に「③錯誤」と更正の日付が記載されます。
(地積更正後の全部事項証明書)
4 まとめ
土地家屋調査士の目線から大地震や大災害から土地を守るためには「土地地積更正登記」が重要であることを解説してきました。
記憶に新しい東日本大震災や阪神淡路大震災では多くの人の命が失われました。
当然の話ですが「土地」より「人命」の方がはるかに大切です。
最優先すべきことは自分や家族の命を守ることです。
これらの対応や準備をしっかりした後に大切な土地を守るために「土地地積更正登記」を検討してみてください。
登記簿(全部事項証明書)に記載されている面積(地積)が正しいとは限りません。
土地地積更正登記を行えば登記簿(全部事項証明書)に記載されている面積(地積)が正しく更正されます。
また、現地復元機能を有する地積測量図が法務局に備え付けられます。
日本は地震が多い国です。
「備えあれば憂いなし」と言います。
この記事が皆さんの大切な土地を守れる一助になれば幸いです。