未登記建物を売買する時の問題点と対策について|登記の進め方も解説

未登記建物を売買するような場面というのは、親族間であったり、古家付の土地売買であったり、建物を未登記のまま買うという状況になることもあり、本当に未登記のまま購入してしまって大丈夫なのか不安になりますよね。

増築部分が未登記だったり、離れが増築されているけど附属建物の登記がされていない。これも未登記の状態での売買と言えるでしょう。

これらの未登記建物は、たとえその建物全体や増築部分が登記されていなくても一定の要件が満たされる限り売買契約は成立し、売却手続きは完了できるでしょう。

実際に親戚間などではこのような売買が行われていることもあるかもしれません。

しかし、未登記建物の場合、買主が住宅ローンを使う場合や通常の不動産取引においては、まず登記無しで売買をするということはほとんど見かけません。

なぜなら、不動産を現金で買うということが少ないですし、取引の安全にもつながらないからです。

不動産登記は,わたしたちの大切な財産である土地や建物の所在・面積のほか,所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し,これを一般公開することにより、権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし、取引の安全と円滑をはかる役割をはたしています。
法務省のWEBサイトより引用

決して安くはない不動産売買ですから、未登記建物についてもきちんと登記して権利を保全する必要があります。

本記事では、数々の未登記建物の売買の場面で建物の登記をしてきた土地家屋調査士が、一般的な問題点、その対策、登記の進め方について情報提供し、具体的に建物表題登記や増築の登記をどのように進めていくのかについて詳しく解説していきます。

是非、本記事を参考にして、売主様も買主様も安心・安全な不動産取引にしてください。

1 未登記建物の売買の問題点

未登記建物の売買の問題点は、売主の観点から考えると未登記のままだと買い手が限られるという点があり、買主の観点から考えるとローンが使えなかったり、権利が明確化されない・保全につながらないことなどが考えられます。
これらの問題点、その他の問題点について詳しく解説していきます。

1-1 金融機関のローンが使えない

不動産売買において、未登記建物に対しては一般的な金融機関ではローンが使えません。
金融機関が融資をするときには、土地や建物に対して抵当権設定をし、その抵当権を登記しますので、対象物である建物の登記がされている必要があります。
未登記建物の状態では抵当権設定登記が出来ないからです。
そのため、建物が未登記のままだと金融機関のローンが使えなということになります。

(抵当権設定の登記がされた登記簿)

増築部分の未登記がある建物についても、増築の登記を行ってから融資をするということがほとんどでしょう。
金融機関はローン審査にあたり物件の調査をしっかり行っていますので、担保評価をするにあたって、

① 建物の登記がされているかどうか
② 未登記のままとなっている増築部分はないか

これらの部分はしっかりとした調査対象になるでしょう。

1-2 権利関係が不安定になる

不動産売買において登記をしない(未登記建物)ということは権利関係が不安定になるとも言えます。
国の不動産登記システムに登録がされていませんので、どのような建物で誰が所有者なのか、登記上不明確な状態だからです。

不動産登記制度の役割の一つとしては、売買対象の範囲を特定し、買主(権利者)を登記で保護するという側面もあります。(民法第177条を参照してください。)

売買対象の範囲を特定するには、登記簿の表題部の部分で特定をします。

(売買対象の範囲を各項目で特定された建物の表題部)

(不動産登記法の一部を引用 : 登記される事項は法律で決められています)

(建物の表示に関する登記の登記事項)
第四十四条 建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である建物にあっては、当該建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)
二 家屋番号
三 建物の種類構造及び床面積

これらの表題部で売買対象の範囲を特定し、さらに所有権保存登記、所有権移転登記と所有者の権利に関することについても登記していきます。

未登記のままにしておくということは、これらの対象物の範囲の特定から所有権の異動の履歴が一切登記されない(国のシステムに記録されない)ということになります。

未登記についての詳しい解説は下記の記事も参考にしてみてください。

未登記とは?未登記建物の表題登記について専門家が徹底解説!

未登記建物を相続したら何をする?やるべきこと【3ステップ】を解説

1-3 次回の売買時に登記が必要になる場合がある

いろいろなリスクを承知で、未登記建物を現金で購入したとしても次回この建物を売却しようとした時に、登記が必要になる場合があります。
次の買主が登記を求める場合やローンを使う場合があるからです。

これは、上記(♯ 1-1 金融機関のローンが使えない)でも解説しましたが、やはり売買の都度、買主が代金をどのようにして用意するかという問題にあたります。
建物一棟全体が未登記の場合もあれば、建物の一部を増築していてそこが未登記なっている場合もありますし、状況は様々ですが、買主の状況によってどこかの場面で登記が必要になる場合があります。

 

(事例1)

売買があるということで、増築登記の依頼を受け、物件の調査をしたところ、今回の売主は増築部分を未登記のまま購入していた。
しかし、この度売却するにあたり、買主側の金融機関の都合で、売主として増築の登記をすることになった。
今回の売主は、前回の売買契約書などを、未登記増築部分の所有権証明書として法務局へ提出し、登記を完了した。

このように、実際に未登記のまま建物を購入したけども、いざ自分が売るとなったときに登記が必要になることはあります。

1-4 未登記のまま放置すると所有権の証明が複雑になる

未登記建物を現金で購入し、そのまま長らく放置すると所有権の証明が複雑になり、場合によっては争いになることもあり得ます。
所有権を示す売買契約書や領収書が紛失や誤って廃棄してしまう場合があるからです。

買った本人がそのまま未登記建物を使用して、売主などの当事者がご健在の時はそれでもいいかもしれません。
しかし、購入した未登記建物をそのまま放置し、所有者が亡くなってしまったとしましょう。購入した時の領収書や売買契約書なども全て紛失し、しかも親族間での売買であったためにその証明も全く出来ず、建物の課税もされていなかった、土地も無償で借りていたなどのケースでは、所有権の証明がより複雑化してきます。別の親族や土地所有者がその建物の所有権の権利を主張してきた。
などといったことも起こりえない話ではありません。

未登記建物を表題登記するには、まず一番最初に誰がその建物を取得したのかということからスタートして、相続が発生していると、その相続人全員が未登記建物について遺産分割協議をする必要があります。

コラム:火災保険の対象範囲は大丈夫?

一般的に火災保険と登記や課税の有無などはあまり関連が無いようですね。しかし、保険会社が把握している面積や構造、種類
などと現状が違っているのに申告せず、そのままになっている場合はどうでしょうか。建物が火災で無くなってしまえば、なかなかその証明をすることが難しいでしょう。東日本大震災のような大災害時でも補償の問題と登記の有無では賠償認定のスピードなどでも差が出るように思われます。今一度、登記面積と現状が一致しているかの確認をしてみるのも、権利の範囲を明確にすることにつながりそうですね。

2 未登記建物を売買する時の対策

未登記建物を売買する時には以下の対策ができます。

未登記建物を売買する時の備え

① 物件の調査をしておく
② 建物表題登記、増築の登記をしておく
③ 所有権保存登記をしておく

自分が所有している建物が未登記であることが分かった時は、やはり登記をしておくことが備えになります。
未登記建物を購入しようとする場合でも売主に登記を依頼し『登記が完了した建物を購入する』とすることで対象物件の範囲や権利関係が明確になり、安心安全な取引になります。

STEP1 物件の調査をしておく

未登記建物の調査をすることが備えになります。購入しようとしている建物が未登記であることが分かった場合、どの部分が未登記なのかしっかり調査しておく必要があります。通常は不動産会社や金融機関などが第一としては調査しますが、個人間売買などでは、不動産会社を通さないこともあるかもしれません。
そのような場合は、自分で法務局へ行くなどして登記されているかどうかをしっかり調査する必要があるでしょう。

この建物の未登記部分についての調査を専門家に依頼する場合は、土地家屋調査士へ依頼します。土地家屋調査士は不動産の表示に関する登記の専門家ですから、まずは調査だけを依頼して登記されているかどうか、未登記の部分は無いかなどをしっかりと確認しましょう。
土地家屋調査士は金融機関からの依頼を受けて、物件が登記対象の建物かどうかや、未登記建物の登記を実行することがあるプロですので、自分で調査が難しいと感じたら専門家へ相談することも検討しましょう。

STEP2 建物表題登記、増築の登記をしておく

未登記建物の調査が完了したら、未登記の部分について登記をすることで更なる備えとなります。未登記部分が建物全体であれば、建物表題登記を行い、建物の一部が未登記なのであれば増築登記(建物表題部変更登記)を行います。この未登記となっている部分というものには、リフォーム工事などで、増築のみに限らず一部を取壊しているかもしれません。
現状と登記を一致させておくことが、売買対象物の範囲の特定につながり備えになりますので、調査したら登記まで実施するのがよいでしょう。

増築登記についての詳しい解説は下記の記事も参考にしてください。

増築未登記の中古戸建のリスクとその解消方法を土地家屋調査士が解説

STEP3 所有権保存登記をしておく

未登記建物を調査して表題登記まで行ったら、所有権保存登記まで行っておけば権利証(登記識別情報通知書)の取得もできますので安心です。未登記建物を売却しようと思えば、買主が登記を求める場合が通常ですから、買主がローンが使う場合など、いつかはこの所有権保存登記をする場面が出てくるでしょう。
所有権保存登記を専門家に依頼する場合は司法書士に依頼します。

建物表題登記と所有権保存登記の違いについては下記の記事も参考にしてください。

土地家屋調査士が解説!建物表題登記と所有権保存登記の違いについて

コラム:未登記建物をそのままにしておいた時の罰則について

未登記建物を表題登記しないと過料という行政罰が課せられることになっています。実際はあまりこの規定が適用されたという
ことは聞きませんが、今後の登記行政としては、相続登記をしないことがこの過料を伴い義務化されることや、住所の移転履歴を登記しないことについてもこの過料を伴い義務化されるなど変化が見られます。従って、不動産所有者としては未登記建物の所有権を取得したら表題登記することが建物所有者の義務であるという認識を改めて持ち、不動産取引の際は不動産登記をしっかりと行い、争いを予防し、安心・安全な不動産にしていきましょう。

3 未登記建物を表題登記する費用とスケジュール

未登記建物を登記する費用は一般的な200㎡位までの延床面積の建物で15万円+税前後になります。スケジュールは専門家に依頼する場合で、依頼から物件の現場調査、書類作成、登記完了までで概ね1か月をみておけばよいでしょう。

相続が発生している場合や、建物の形状が複雑な場合、書類が不十分な場合にはさらに時間がかかります。

自分で登記行う場合には、登録免許税など法務局に支払う費用はありませんので0円で出来ます。(交通費や書類代などは除く)
0円で出来ますが、慣れていなければ膨大な時間がかかることが予想されますし、建物図面・各階平面図という法律で細かく規定された図面を作成することが一般的には非常に困難な作業です。建物図面を書くCADソフトや法律の規定など文書を整えることが苦手な方は専門家に依頼することも検討しましょう。

土地家屋調査士に依頼する場合、その建物の面積や、構造の複雑さなどにより変動します。
15万円で終わるものもあれば、数十万円かかる建物もあります。

 

CASE1
未登記の一戸建、200㎡以内 15万円+税

CASE2
床面積  200㎡超えの未登記住宅、附属建物2棟    20万円+税

CASE3
床面積 2,000㎡超えの未登記の8階建マンション   45万円+税
相続が発生している場合については、戸籍収集費用のほか、遺産分割協議もまだ済んでいない場合は別途、遺産分割協議書の作成を司法書士などへ依頼する費用がかかります。

 

(実際の未登記建物を表題登記を専門家に依頼した場合の見積書)

4 未登記建物を表題登記する手続きの専門家の選び方

未登記建物を売買する前に、しっかり登記をやっておこうと表題登記する手続きは土地家屋調査士へ依頼します。

土地家屋調査士法(抜粋)
  土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記の専門家
  土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記の申請手続についての代理を業とする

と規定されています。

そこで、どのように土地家屋調査士を選んだらよいのでしょうか。

まず、未登記建物の建物表題登記を依頼するということは、登記申請や登記に必要な現地調査測量、書類収集を委任、委託することになりますので、信頼できる土地家屋調査士法人、土地家屋調査士を選ぶことが重要です。

【土地家屋調査士法人、土地家屋調査士を選ぶポイント】

良い選び方
1. 信頼できる
2. 親身になって相談に乗ってくれる
3. 見積額、注意点を示してくれる

悪い選び方
1. 事務所が近いことだけで選ぶ
2. 費用が安いことだけで選ぶ
3. 適当に選ぶ

自宅から近いからとか
費用が安いからとか
ということを基準に選ぶことはおすすめしません。

未登記建物を表題登記するには、その所有権を示す資料が複雑であり、現地の調査や特定に時間がかかります。登記申請後も登記官と打ち合わせしながら進め、土地家屋調査士が登記申請の代理をしていても、場合によっては登記官が現地に赴くこともあり、所有権の認定に神経をとがらせる難しい登記です。

安心して登記を任せられる代理人を選びましょう。

コラム:未登記建物を売買しようとする場合は、トラブルになる前に専門家へ相談を

未登記建物を未登記の売買をすることは専門家としてはお勧めできません。なぜなら、権利の範囲が登記で明確にならない上に、全体が未登記のままでは購入しても権利証(登記識別情報通知)が発行されません。存在するとしたら、代金の領収書や売買契約書くらいしか無いのではないでしょうか。これらの書類を何十年も無事に保管できるでしょうか。登記をしておけば、少なくとも国がその情報を管理してくれます。何十万かの登記費用をかけなかったばかりに、トラブルになってしまえばそれ以上の費用がかかってしまいかねません。土地家屋調査士と司法書士に一連の流れで相談し、未登記建物を登記してから売買することをお勧めいたします。

5 まとめ


未登記建物の売買には以下の問題点が考えられます。

1 金融機関のローンが使えない
2 権利関係が不安定になる
3 次回の売買時に登記が必要になる場合がある
4 未登記のまま放置すると所有権の証明が複雑になる

不動産取引は主に登記(権利証、登記識別情報通知)などで不動産所有者であることを証明します。

所有者として現れた人物が真の所有者かどうかが直ちには分からないため、登記と書類でその確認を行っています。未登記建物について私が所有者だという人物が現れ、登記はしていないけど、売買契約書・領収書があるのでこのまま買ってくれと言ってきたとしましょう。
その人物の言うこと、保有している書類が本物であるか信用ができるでしょうか。
登記をしないで建物代金を支払うことができるでしょうか。知り合いや親族ならできるかもしれませんが、第三者であれば難しいのではないでしょうか。

そこで一般的には不動産取引の前に、売買対象の範囲を明確化し表題登記して、権利関係もはっきりとさせます。そこまでできれば、初めて安心して何千万何億何十億という売買代金を振り込むことができるのです。

安心・安全の不動産取引にするためにも下記の対策を実施しましょう。

STEP1 物件の調査をしておく
STEP2 建物表題登記、増築の登記をしておく
STEP3 所有権保存登記をしておく

未登記建物の売買では、登記をしっかり行ってから取引をすることが大切です。万が一、登記をしないまま売買をしてしまった方は、今からでも遅くはありません。すぐにでも、売買当時の資料を持って専門家に相談して登記を終えましょう。

是非、本記事を参考にして安心・安全な不動産取引を実現しましょう。

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