隣地境界線50cmの根拠と例外を境界の専門家土地家屋調査士が解説

隣地境界線から50cm離さないと建物って建ててはいけなんですよね?
確かに聞いたことあるけどそれって本当なの?

自分の土地なのに何で50cm離さなけれなならないのでしょうか。
境界線から建物のどこまでが50cmなのでしょうか。
境界線から50cm未満だったらどうなってしまうのでしょうか。

これらは民法建築基準法の法律で規定されています。
また、場所によっては慣習が優先される場所もあります。
お隣とのトラブルを未然に防ぐためにも隣地境界線と建物の位置関係を理解することは大切です。

今回は土地境界及び測量についての専門家である土地家屋調査士が、
隣地境界線と建物の位置関係についてわかりやすく解説します。

1 隣地境界線50cmとは


隣地境界線50cmとは民法第234条1項の規定です。
この法律が「境界線50cm」の根拠です。

隣地境界線からの離れに関しては、このほかにも建築基準法第65条民法236条(慣習)などがあります。

それぞれの法律はどういう内容なのか?何が優先されて建物のどの部分までの距離なのかを下記にて説明します。

1-1 境界線付近の建築の制限(民法234条)

民法234条1項
建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。

このように民法では、隣地境界線から50cm以上離さなければならないとされています。

 

民法は「私法」と呼ばれ、私人間の関係を規律する法のことを言います。
「私法」ですので当事者双方の合意があれば50cm以下にすることもできます。

1-2 隣地境界線に接する外壁(建築基準法63条) 

建築基準法63条
防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。

このように建築基準法では、防火地域又は準防火地域内にある建物で、外壁が耐火構造のものについては隣地境界線に接して設けることができるとされています。

民法では50cm以上離す、建築基準法(防火地域又は準防火地域内)では隣地境界線に接することができる。
これはどういうことなのでしょう?以下で解説します。

1-3 民法234条と建築基準法63条どちらが優先されるのか

結論は、建築基準法が優先されます。

民法234条、建築基準法63条同じ法律なのに違うことが書いてあります。
この関係はどのようになっているのかを説明します。

繰り返しの説明となりますが
民法234条では隣地境界線から50cm離しなさい。
建築基準法63条では防火地域又は、準防火地域で建物の外壁が耐火構造なら境界線に接していい。

かなりの矛盾です。

これについては裁判になっていて建築基準法が優先されるという判例が出ています。

最高裁判所判例平成元年9月19日民集43巻8号955頁
建築基準法63条は、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建築物に限り、その建物については民法234条1項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当である。」と指摘し、建築基準法63条が民法234条の特則であるとの判断を下しています。

このように防火地域または準防火地域内の建物で外壁が耐火構造である場合は民法234条より建築基準法63条が優先されます。

では、民法234条の50㎝以上離しなさいとは別の「慣習」がある場合はどうなるのでしょうか?下記で解説します。

 

1-4 民法と慣習はどちらが優先されるのか  

結論は、「慣習」が優先されます。

民法236条(境界線付近の建築に関する慣習)
前二条と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

民法236条の前二条とは234条と235条のことを指します。

先ほども説明しましたが民法234条は隣地境界線から50cm離しなさいという条文です。

 

民法236条は民法234条(50cm離しなさい)より慣習が優先されると言っています。

このように「慣習」が優先されるとなっていますが、近隣問題は非常にデリケートな問題です。
地域の「慣習」は50㎝未満で建築していいとなっているから建てるではなく、お隣の方とよく話し合って合意を取った方が近隣関係がうまくいくのではないでしょうか。

1-5 隣地境界線から建物のどの部分までの距離なのか


隣地境界線から建物のどの部分までが50㎝なのでしょうか?
これについても裁判で判決が出ています。
結論は「外壁」です。

東京地裁平成4年1月28日判決
建物の側壁又はこれと同視すべき出窓その他の建物の張出し部分と境界線との最短距離を測るものと解されています。
東京高裁昭和58年2月7日判決
建物の屋根又はひさしの各先端から鉛直に下ろした線が地表と交わる点と境界線との最短距離を測るのではないと解されています。

民法234条1項は,建物と境界線との間を50㎝以上確保することにより,火災等の延焼を防止したり,境界線付近における建物建築や修繕のための足場等を設置する場所を確保することにあります。
このような理由から民法234条1項の定める隣地境界線から50㎝以上離す部分は建物の側壁及びこれと同視すべき出窓その他の建物の張出し部分と境界線との最短距離を定めたものと解されています。

2 隣地境界線からの離れのルールを破ったらどうなるのか

では、隣地境界線から50㎝未満で建築されてしまったどうなるのか?
民法は、隣地の所有者は、その建物を建築した者に対し、建築の中止又は変更を求めることができると規定されています。

民法234条1項は隣地境界線からは50㎝以上離しなさいと規定しています。
そして民法234条2項で建物を建築をしたものに対して建築の中止又は変更を求めることができるとしています。
ただし、「建築に着手した時から1年を経過した場合」又は「建物が完成した後」は、建築の中止又は変更を求めることはできないと規定されています。
この場合、隣地の所有者は、損害賠償の請求のみすることができると規定されています。

民法234条1項
建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。
民法234条2項
前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

このように隣地境界線からの離れを規定している民法234条は1項で50㎝以上離しなさいと規定して、2項でこれを守らなかったら工事の中止や変更を求められると言っています。
ただし、一定期間が経過したり、建物が完成した場合は壊せとは言わず、損害賠償が請求できるだけだと規定しています。

コラム:少なくとも正確な境界線は把握しておこう

隣地境界線から50cm離して建物を建築しなければならない。
これは結構有名な話で聞いたことがある方も多いと思います。
説明してきたように民法の規定で50cmと決まっています。
これとは別に建築基準法や慣習の例外があることも説明してきました。
50cm結構シビアな話です。
しかし、そもそも境界線がどこなのかご存じでしょうか?
正確な境界線が不明なのに境界線から50cmを知っても本末転倒です。
この記事では隣地境界線50cmについて説明してきましたが、境界線についても理解いただき正しい位置を確認してください。
境界線については「土地の価値を高めるための境界確定のすすめ」をご一読ください。

3 まとめ


隣地境界線からの離れについて解説してきました。

隣地境界線からの離れは、非常にシビアな問題です。
多くのご近所トラブルがあると思いますが隣地境界線からの離れの問題は法律でしっかり規定されていますのでしっかりと理解されていると安心できると思います。

・民法234条1項は隣地境界線より50㎝以上離さなければならない。

・防火地域又は準防火地域で外壁が耐火構造の場合はその外壁は隣地境界線に接していい。

・地域の慣習で50㎝未満でもいいのであれば民法234条1項より慣習が優先される。

隣地境界線より50㎝という言葉は聞いたことがある方も少なくはないと思いますが、
この記事では50㎝の根拠や50㎝でなくてもいい場合、お隣が50㎝未満で建物を建ててしまった場合の対処法を説明しました。

この記事が皆様の大切な不動産を安心・安全な価値にできる一助になれば幸いです。

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