「建物滅失登記」とは?大切なポイントを土地家屋調査士が解説します

建物の登記が残ってますよ。「建物滅失登記」をしてください。と言われても、どうしたらいいのか。自分で登記ができるものなのか、何から始めて良いのか、分からないことも多いと思います。

登記されている建物を解体し、それまで存在していた建物が存在しなくなった時、建物滅失登記が必要となります。建物に対する固定資産税の過徴収を防ぐため、素早く建物滅失登記を申請することが重要です。

建物滅失登記は申請義務のある手続きですので、建物が解体された日から1か月以内に建物滅失登記を申請する必要があります。自然災害や火災などで存在しなくなった場合でも同様です。

今回は、建物の滅失登記の専門家である土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)が建物滅失登記について必要書類から申請方法まで、徹底解説致します。

借地上にある建物など難しいケースもありますので、是非、この記事を読んで、建物滅失登記の必要性や方法をご理解いただき、どのように登記を進めるべきなのか、誰に依頼するのかを検討する材料にしてください。

1 建物滅失登記とは

 

建物滅失登記とはどのような登記なのか、建物滅失登記の目的や効果について解説していきます。

1-1 建物滅失登記とは

 

建物滅失登記(たてものめっしつとうき)とは、法務局(国)に登記・公開されている、建物の登記記録を閉鎖させる手続きのことです。

単に滅失登記などと呼ばれることもあります。

不動産登記法に規定されている方法で、管轄する法務局(登記所)に対し、登記申請書及び附属書類を提出することにより登記が実行されます。

建物の所有者には申請義務が課されているため、申請しないと10万円の過料が課せられる規定になっている重要な登記です。

(不動産登記法一部抜粋)

建物の滅失の登記の申請
第五十七条 建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の場合にあっては、所有者)は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない。

(法務局へ提出された建物滅失登記の申請書)

 

 

1-2 建物滅失登記の目的

 

建物滅失登記の目的とは 現存しなくなった建物について、登記記録と現状とを一致させることです。

不動産登記制度は、不動産取引の安全のため、不動産の情報を広く公示する機能がありますので、建物が現存しなくなれば、登記記録も閉鎖させる必要があります。

(閉鎖された登記記録)

 

 

1-3 建物滅失登記の効果

 

建物滅失登記には以下のような効果があります。

 

①申請義務を果たし行政罰を受けずに済む
②固定資産税の過徴収を防げる
③スムーズな売却、融資が可能

 

(固定資産税の評価証明書)

 

①申請義務を果たし行政罰を受けずに済む
1つ目の効果は、行政罰を受けずに済むことです。
建物滅失登記は申請義務が課せられており、原則、建物が解体され現存しなくなってから1か月以内に申請しないと、10万円の過料が課せられることになっています。

②固定資産税の過徴収を防げる
2つ目の効果は、固定資産税の過徴収を防げることです。
建物滅失登記がされると、登記記録は閉鎖され、閉鎖した情報が法務局から市区町村の固定資産税課・都税事務所などに回され、固定資産税の徴収事務との連携が図られるため、解体した建物について誤って固定資産税が徴収されるなど、過徴収の心配は無くなります。

③スムーズな売却、融資が可能
建物滅失登記が完了していれば、売却時もスムーズです。建物滅失登記には時間がかかる場合もありますので、滅失登記が完了している状態であれば、スムーズな売却活動ができます。
建物滅失登記が完了していれば、金融機関より融資を受けて、建物を再建築したい場合でもスムーズな融資実行が想定できます。金融機関は現存しない建物が登記記録上残っていると、まず滅失登記を求め、その後に融資を行うことも多いため、滅失登記が完了している状態であれば、スムーズな融資を受けられます。
売買の場面でも買主側の融資に影響が出る可能性がありますので、滅失登記は早めに行いましょう。

 

2 建物を滅失登記する方法(自分でできるの?)

 

建物滅失登記は自分でも申請できます。

しかし、状況によっては専門家(土地家屋調査士)へ依頼することも検討しましょう。

書類に不慣れな方や、時間的な制約があり、スムーズに登記を終えたい方は、専門家に依頼した方が確実です。
この章では、建物滅失登記の申請方法、必要書類、土地家屋調査士の選び方について解説します。

2-1 建物滅失登記の申請方法

自分で申請する場合と専門家に依頼する場合と2パターンで解説します。

2-2 建物滅失登記の申請時の注意点

 

◎登記上のどの建物が解体されたのかの判断に注意する

登記申請するにあたり、登記申請書には、解体された建物の登記記録の表題部の事項を記載しますが、そもそも、どの建物登記記録が取壊された建物なのかを特定する必要があります。
これは、非常に重要な判断となり、下記のような場合では特に難しい判断となることから専門家に依頼すること検討がした方が良いケースです。

 

現地のどのあたりに建築されていたのかの判断が難しいケース

①複数棟建物を所有している
②建物が所在する土地を、合筆や分筆などで、地番変更している
③広大な借地に複数棟建築されている建物
④建築されて年数が経過している建物
⑤土地の地番と家屋番号が一致しない建物
⑥建物図面が登記されていない建物

現地の特定が容易ではない建物は、現地に建物が既に無いため、誤って、現存する建物を滅失登記申請してしまう危険もあり、固定資産税課などへ確認したり、近隣を回って調査する場合もあります。

どの登記記録の建物がいつ解体されたのかについては十分注意して調査し、誤って現存する建物を滅失登記することのないようにしてください。

◎滅失原因の判断に注意する

一般的には取壊しが建物滅失の原因になりますが、火災による焼失、地震による倒壊、津波・洪水による流失、なども登記原因となります。このような場合の滅失登記は、消防署や自治体より罹災証明書を発行してもらい法務局へ提出します。

2-3 建物滅失登記の必要書類

 

建物滅失登記に必要な書類は以下の通りです。

 

(建物滅失登記に必要な書類一覧)

建物滅失登記の必要書類は「登記申請書」と、「解体証明書(取壊証明書)」など、解体された事実を示す書類です。

「解体証明書(取壊証明書)」の真正を担保するために、「解体業者の印鑑証明書」と「解体業者の代表者事項証明書(会社謄本など)」を併せて提出してください。解体業者個人の場合は、「解体業者個人の印鑑証明書」を提出します。(印鑑証明書、代表者事項証明書は省略できる場合があります)

「解体証明書(取壊証明書)」が無い場合、建物が存在した自治体の固定資産税課などへ行き、「滅失証明書」が発行される場合がありますので、固定資産税課へ確認の上、「滅失証明書」を取得して提出すると証明できます。自治体は固定資産税の徴収事務の中で、航空写真や目視等で建物の確認をしており、「滅失証明書」が発行できる場合があります。

「上申書」という書類を作成し申請人が解体の事実を証言する書類を提出することもあります。この「上申書」は実印を押印し、申請人の印鑑証明書を添付します。

2-4 建物滅失登記の申請人

申請人は誰か?の判断が重要です。

登記申請書には、申請人を記載しますが、誰を書いたら良いのかの判断が難しいケースがあります。

例えば、
①相続が発生している
②登記記録上の住所や氏名から変更がある
のケースです。

①相続が発生している場合
登記記録上の所有者に相続が発生している場合は、相続登記をしないままでも相続人の一人から申請ができますが、繋がりのつく戸籍、住民票などを一式そろえる必要があります。

②登記記録上の住所や氏名から変更がある場合
住所や氏名が変更している場合にも、繋がりのつく住民票や戸籍、戸籍の附票等で一致させる必要があります。
住所変更を繰り返している場合で、住民票、住民票の除票などが既に廃棄されており、繋がりを証明できないケースには、本人確認のため、解体した建物の登記済権利証などを提出する場合もあります。

2-5 建物滅失登記は土地家屋調査士へ依頼をする

建物滅失登記を確実に登記しなければならない場面、急ぎの場面であれば、迷わず土地家屋調査士法人、土地家屋調査士に依頼しましょう。

複雑なケースでの建物滅失登記は、法務局へ提出する書類作成や、現地調査、固定資産税課や都税事務所への調査など多岐にわたり時間がかかりますので、期限に間に合わないケースが考えられます。

 

専門家に頼んだ方が良い理由

① 慣れていないと相当の時間がかかる
② 間違いが無く登記ができ、とにかく時間が短縮できる
③ 基本的には5万円程度で依頼できる

 

 

また土地家屋調査士は不動産の表示に関する登記の専門家であり、建物滅失登記は表示に関する登記ですから、土地家屋調査士以外に依頼をしても建物滅失登記は代理申請ができません。

(土地家屋調査士法の抜粋)

土地家屋調査士法(抜粋)
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記の専門家
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記の申請手続についての代理を業とする
と規定されております。

不動産の表示に関する登記とは? ⇒ 建物の登記記録のうち、所在、種類、構造、床面積などが記載されている表題部という部分についての登記のことをいいます。不動産取引の安全のため、どの場所に、どんな種類の建物で、何㎡あるのか、所有者は誰なのかを公示(こうじ)しています。

そこで、どのような土地家屋調査士を選んだらよいのでしょうか。

まず、解体建物の建物滅失登記を依頼するということは、登記申請や登記に必要な現地調査測量、書類収集を委任、委託することになりますので、信頼できる土地家屋調査士法人、土地家屋調査士を選ぶことが重要です。

 

【土地家屋調査士法人、土地家屋調査士を選ぶポイント】

1. 信頼できる
2. 親身になって相談に乗ってくれる
3. 見積額、注意点を示してくれる

悪い選び方

1. 事務所が近いことだけで選ぶ
2. 費用が安いことだけで選ぶ
3. 適当に選ぶ

自宅から近いからとか、費用が安いからとか

ということを基準に選ぶということはお勧めいたしません。

お医者様や病院を選ぶときはどうでしょうか。この場合と一緒ですが、必ずしも近いところや、費用が安いからといって、体の不調を取り除いてくれる病院・医師かどうかは近さや費用では決められないはずです。

安心・安全に、また確実に建物滅失登記を実施しなければならないわけです。
銀行様とのやり取りのスムーズさ、関係者とのやり取りのスムーズさなど、ストレスなく業務を完了させるにあたり、安心・安全に、また確実に建物滅失登記を実施するには、
信頼できる業者を探すのが第一になります。

【費用について】

安い、高い色々あるかもしれません。
ある事務所は、開業間もない事務所で従業員も雇っておらず、家族で仕事をしている。経験もそれほどないが仕事がとにかく欲しい状況だと金額を安く設定できるかもしれません。
しかし、インフルエンザに感染した、コロナに感染した、風邪をひいた、骨折した・・・などの理由で業務を続行できないケースもありえます。

ある事務所は、費用はかかるが、しっかりしたサポート体制で従業員も多数でいざという時のフォローもできる状況、経験も多数あり、安心・安全に、また確実に建物滅失登記ができる。想定外の状況についての説明もいただいた。

このように、確実に実施するため、業者選びには最新の注意を払っていただき信頼できる業者を選んでください。

医院、病院を例に考えても安い方が良い手術ができるのでしょうか。近い医院、病院の方が良い手術ができるのでしょうか。

必ずしも費用だけではないことをお伝えします。

 

【コラム】建物滅失登記の申出(もうしで)

自分の土地の上に、所有者不明の建物登記が残っていた場合どうすれば良いのでしょうか?先々代の時代に借地をしていて、その時代のころの借地人さんが建築した建物登記などが残っているケースがあります。現在の土地所有者に聞いても、誰なのか不明で、課税調査などをしても把握がされていない建物でその建物の所有者や所有者の相続人が見つからない場合には建物の滅失登記の申出を行います。申出書を法務局へ提出することにより、職権で建物登記記録を閉鎖してもらう手続きになります。所有者不明土地問題がクローズアップされる現代、自分の土地上に所有者不明建物が無いか、一度調査してみてはいかがでしょうか!!

 

(建物滅失の申出書)

 

 

3 建物滅失登記の費用

建物滅失登記を自分で行う場合、かかる費用は0円です。
登録免許税、印紙代などはかかりません。
ただし、土地家屋調査士法人、土地家屋調査士に依頼する場合は別途報酬がかかります。

建物棟数、借地上の建物など、調査範囲、出張費、相続が発生している場合の戸籍収集費用などが別途かかる場合があります。

 

(実際の見積書)

 

 

4 建物滅失登記のスケジュール

滅失登記のスケジュールは以下のように進みます。

専門家に依頼する場合は、調査完了まで1週間、書類の収集も順調に進めば同時並行で進めて1週間~10日間、登記申請から完了まで1週間~10日間(法務局の混在状況により前後します)。
全体で3週間程度みておいていただければ、登記は完了いたしますが、書類が不足しているケース、戸籍の収集が必要な場合や詳細の役所調査が必要なケースなどは、これらの書類を整える期間が必要です。

自分でやる場合は、慣れていないと1か月以上かかる可能性もあり、急ぎの場合はスケジュールに注意が必要ですね。

 

5 建物滅失登記の注意点

建物滅失登記をする際には、4つの注意点を確認する必要があります。

1.過料(行政罰)がある
2.売却等スケジュールの遅れ
3.抵当権者の確認
4.土地の固定資産税の増加

1.過料(行政罰)がある

不動産登記法を確認してみると、

不動産登記法一部抜粋
(建物の滅失の登記の申請)
第五十七条 建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の場合にあっては、所有者)は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない。

建物が滅失した時は、その滅失の日から一か月以内に、登記申請しなければならないという、義務規定となっており

申請しない場合には、10万円の過料(かりょう)という行政罰が課されることになっています。建物解体を行った場合、滅失登記がなされていないことが判明した場合には、なるべく速やかに滅失登記を申請する必要がありますね。

(過料)
第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

2.売却等スケジュールの遅れ

 解体した建物の登記を未登記のままにしておくと、売却等のスケジュールに遅れが生じます。建物滅失登記するには、書類収集や、申請書作成など、手間暇がかかりますし、戸籍を集めるようなケースだと、1~2か月かかることもあります。相続人が多数いるようなケースではもっと期間がかかります。
 書類が不足していると登記するために、法務局との協議にも時間がかかりますので、早めに未登記状態を解消しておきましょう。

3.抵当権者の確認

 抵当権等の担保権が設定されている建物は、解体前の段階でも抵当権者に確認するなど、今後の融資実務に影響が出ないように注意してください。抵当権者の承諾は無くとも滅失登記は実行出来ますが、今後の融資取引に影響が出ないように抵当権者の意向には十分注意してください。
 土地家屋調査士の調査実務では、抵当権者に抵当権に関する内容を確認した上で、法務局へ提出する調査報告書へ記載し申請します。

4.土地の固定資産税の増加
 
建物の滅失登記を行うということは、建物が解体されたということであり、建物敷地は更地になったということです。建物の固定資産税は課税されなくなりますが、その反面、土地については更地課税となり、課税額が増加する可能性があります。

建物を解体するにあたっては、今後の利用状況も踏まえて考慮が必要です。なお、解体後一定の期間で建て替えるなどのケースにおいては、課税額が増加しないケースもありますので、自治体に直接確認するようにしてください。

6 まとめ

建物滅失登記(たてものめっしつとうき)とは、法務局(国)に登記・公開されている、建物の登記記録を閉鎖させる手続きのことです。

実施する場合は、以下3点に注意しましょう。

1:どの建物を解体したかの特定が重要
2:誰が滅失登記を申請するべきなのかの特定が重要
3:効率を考えて土地家屋調査士に依頼することも検討する

売却期限など、急ぎのスケジュールがある場合は、土地家屋調査士に依頼するのが無難です。
建物滅失登記は対象物をしっかり特定する必要があり、書類収集などに時間がかかることを把握し、早めに準備を行い、安全確実に滅失登記をすることが大切ですね。

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