建物の一部を増築工事しているけど、本当に登記は必要なの?
急な売買で「増築登記が必要です」と言われた、親の代で増築してある建物を相続した後、税理士さんから「増築登記はやっておいてくださいね」と言われた・・・。
増築登記って、する必要があるのか、放置するとどうなるのか・・・よくわからないですよね。
建物を増築したまま放置してしまうと、過料に課せられる、売買できない、リフォームローンが組めない、相続手続きがスムーズにいかない可能性があるなどデメリットがたくさんあるため、増築登記はすぐにしなければならないものなのです。
増築した人は国へ増築登記を申請し登記上の面積を修正する義務があります。
増築登記とは、正式には建物表題部変更登記のことをいい、増築工事で面積が増えた分を法務局という国の役所へ申請する手続きのことで、この登記を行えばやるべきことは完了します。
この建物表題部変更登記はCADで図面作成が必要で少々煩雑で難しいです。従って土地家屋調査士へ依頼するのが一般的になっています。
この煩雑な登記をやらなければならない方のために、本記事では増築登記の専門家である土地家屋調査士が登記をやるべき理由と費用や流れについて分かりやすくお伝えします。
是非、記事を読み進めて増築登記の大切さを理解いただき、所有する建物を安心安全な不動産へと変えていってください。
目次
1 増築登記はしなければなりません。増築したら登記をやるべき理由。
増築をしたら登記を必ず行いましょう。
なぜなら、法律で申請義務が課せられているからです。
具体的には、以下のように法律で申請義務が課せられています。
不動産登記法 第51条
(建物の表題部の変更の登記)
第五十一条 第四十四条第一項各号(第二号及び第六号を除く。)に掲げる登記事項について変更があったときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の場合にあっては、所有者)は、当該変更があった日から一月以内に、当該登記事項に関する変更の登記を申請しなければならない。
この申請義務を果たしていない場合、10万円以下の過料を課せられてしまいます。
不動産登記法 第164条
(過料)
第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
以上のことから建物を増築したら必ず、登記を行いましょう。
実際に登記を行うと、法令を守るだけではなくメリットがあります。
2 増築登記によって得られる4つのメリット
増築登記を行った場合のメリットを4つ解説していきます。
2-1 スムーズな売買ができる
増築登記をやっていないと売買の際にスムーズにいかない可能性があるためやっておいた方が良いです。
売買の場面では、通常買主がローンを組んで不動産を買います。金融機関が物件調査をした際に増築分の登記がなされていないと、ローンの審査がスムーズにいかないことがあり、必ずと言っていいほど増築登記を求められるからです。
いざ増築登記をしようとしても、何十年も経過し相続が発生するなどしていたら、すぐに登記をしようと思っても簡単にはいきません。
スムーズに売買を行うためにも増築したらすぐに登記しましょう。
(増築登記がされていない表示のある売買契約書)
2-2 スムーズな相続につながる
増築登記をやっていないと相続の際にスムーズにいかない可能性があるためやっておいた方が良いです。
建物を相続したら、相続人で話し合い、遺産分割協議を行います。この時に増築した部分の登記を行っていないと、増築部分は誰の所有なのか問題になるケースがあるからです。
増築部分が亡くなった被相続人で増築したのかそれとも別の人物が増築したのか分からなければ、遺産の一部なのかどうかも分からず揉めるケースもでてくるでしょう。
(事例1)
離れを増築し親戚の叔母様を住まわせていたが、その叔母様が亡くなり、叔母様の相続人と増築部の所有権について争いになったケースがあります。
(事例2)
弟と共同で母屋に外階段と別の入口を付けて2階を増築した。弟は結婚していたが子供がいないまま亡くなった。奥様が相続したが奥様の兄弟は8名おり、さらにその子供たち16名と増築部の所有権について争いとなったケースがあります。
相続が発生すると相続人は権利主張がより強くなる傾向があります。売却しようと考えても増築部分が誰のものなのかがはっきりしなければ、争いになり次のステップへ移ることができなくなる可能性もあります。
スムーズに相続人へ財産を引き継ぐためにも、増築したらすぐに登記しましょう。
2-3 スムーズにリフォームローンを利用できる
増築登記をやっていないとリフォームローンが受けられない可能性があるためやっておいた方が良いです。
以前、現金で増築工事をし、そのままにしておいた場合、今度は大規模修繕等でリフォームローンを利用してもスムーズにリフォームローンが受けられない可能性があるからです。
金融機関は、リフォームローンなどまとまった融資をする際に、建物を抵当権にとることがあります。その際に、増築登記がなされていない部分があると、すぐにローンを受けることができず、まず融資より前に登記を求められることがあります。
金融機関にとって、増築部分が誰の所有なのかを登記簿で明らかにしておかないことはリスクであり、担保価値として不確実なものと考えるでしょう。
(事例1)
増築部の登記をしておらず、融資実行前に増築登記を求められた。増築した所有者は亡くなっており相続関係の調査で1か月かかってしまった。融資契約の月が変更となり、金利が
あがってしまったケースがあります。
スムーズにリフォームローンを受けるためにも、増築したらすぐに登記しましょう。
2-4 自分の権利が守られる
増築登記をやっていないと最新の床面積や形状、所在などが登記に反映されていない状態ですのでやっておいた方が良いです。
登記されていないと何か災害に巻き込まれたときや権利主張するものが現れたとき、増築した部分の賠償手続きがスムーズにいかなかったり権利が守られない可能性があるからです。
(事例1)
昨今、大震災や大災害が多く起こっていますが、被災した後に自分の建物がどのくらいの面積がありどのくらいの価値があったのかを証明するのに、建物図面に反映されていなければ賠償請求がスムーズには受けられない可能性があります。
(参考:東京電力ホールディングス 福島復興への責任 > 賠償 > よくいただくご質問 > 財物の賠償について )
増築部分が登記に反映されていれば保険金や補償金を受けるのも、登記簿を見れば一目瞭然ですからスムーズに行くでしょう。増築したらすぐに登記をしておきましょう。
(事例2)
賃貸用として独立して居住ができるように工事し、そのまま数十年放置したケースがありました。相続なども発生した上、請負契約書などの書類も全て廃棄され増築工事を誰が行ったのか分からない状態となっていました。この部分をずっと無償で借りていた者が、これは私が費用を払って増築したものであるとして増築部分の所有権を主張してきたケースがあります。
利用上の独立性があれば、マンションのように区分建物として登記ができます。所有権の判定は登記官が行いますが、増築部分の所有権を証明することができなければ、増築部分の所有権を占有者に奪われてしまう可能性があります。その後、裁判になったとしても証拠がなければ、裁判官がどのように判断を下すかはわかりません。
増築工事をしたらすぐに登記をしておけば、図面と登記簿が最新の状態へ修正され自己の権利は守られます。
コラム:増築登記を10年間の間で何度も経験した筆者(土地家屋調査士)が感じる増築登記について
・増築登記に申請義務があることを知らなかった。
・増築工事業者さんに何も言われていなかった。
・増築部分が登記されていないまま相続した。
・増築登記がされていない建物を購入した。
このような状態で登記の依頼に来られる方は非常に多いです。増築した部分を登記していないと固定資産税を未納している状態にもなりますし、たとえ固定資産税は徴収されていたとしても、やはり売買時にトラブルになりスムーズに売却できないケースは非常に多いです。増築の程度によっては、建ぺい率容積率の問題も生じますが、現状が登記簿に反映されていれば、対策も早めに打つことができます。サンルーム一つとっても増築です。増築登記には様々なメリットがありますので、増築したらすぐに登記をしましょう。
3 増築登記が不要なケースはあるのか
床面積を増やす増築工事において増築登記が不要なケースはありません。
これは不動産登記法で義務化されているからです。10㎡未満の増築は登記が不要だなどという誤った記事を見かけますが、必ず登記は必要です。
10㎡未満は一定の条件下で建築基準法上の建築確認申請が不要になるケースがあるだけで、不動産登記法上の増築登記は必ず必要ですので、間違わないように注意してください。
なお、外気分断性の無いカーポートやバルコニーだけの増築、床面積に変更の無いリフォームについては登記内容に変更がありませんので、登記は不要です。
4 増築登記の流れ
増築登記は上記の流れで行います。
自分で登記を行うこともできますが、CADで図面作成をしなければならず、ハードルが高いため、土地家屋調査士へ依頼することが一般的です。
どの部分を床面積に入れれば良いかなどの判断も不動産登記法に照らして行わなければ登記が完了しないため、土地家屋調査士へ依頼することを検討しましょう。
5 増築登記の費用と期間
依頼先 | 費用の一例 | 期間 |
土地家屋調査士 | 15~25万+税 *床面積等により変動 | 依頼してから約2~3週間 *状況により変動 |
自分でやる | 交通費、プリント代など | 1か月以上かかる場合も |
増築登記の費用ですが、土地家屋調査士へ依頼した場合は、一般的な100㎡位の建物に10~50㎡前後の増築をした場合で15~25万+税程度となります。
増築の面積や、形状や書類の有無によっても変動します。増築登記をするにあたり、申請人から相続が発生している場合などは別途相続にかかる費用が必要です。
自分でやる場合は、法務局へ支払う登録免許税や印紙などはありませんので法務局に対しては無料で申請ができます。ただ、調査や相談などに行く際の交通費や申請書を作成する紙代や電気代などはかかります。
増築登記の期間ですが、土地家屋調査士へ依頼した場合は、概ね2~3週間くらいで完了するでしょう。もちろん、複雑な増築で登記官が現地調査に来る場合や、書類の収集に時間がかかるケースもありますので、状況により変動致します。
自分でやる場合は、図面作成などかなりハードルが高いため、何度も法務局へ足を運ぶことになる可能性が高いです。その上、最終的に断念するような可能性もあります。費用は掛かりませんが、膨大な労力を要した結果、自分ではできないとなる可能性が高いため、増築登記は土地家屋調査士に依頼することを検討しましょう。
6 増築登記を土地家屋調査士に依頼するポイント
増築登記を依頼先として選ぶことができるのは土地家屋調査士のみです。
増築登記の依頼先を選ぶポイントを解説します。土地家屋調査士へ増築登記を依頼する際は参考にしてください。
1.費用を明確で、見積書でしっかりと説明してくれる
増築の状況や残っている書類の検討など、様々なケースがありますので、見積金額の説明をしっかりと行ってくれる土地家屋調査士を選びましょう。
2.様々な事情について話を聞いてくれる
現在の建物の利用状況や登記完了時期など、じっくりと話を聞いてくれて、「困っていること」「希望の納期」などを聞き出してくれる土地家屋調査士を選びましょう。
3.わかりやすく丁寧に説明をしてくれる
増築登記に必要な書類や、委任状の書き方などを丁寧に説明してもらえると安心ですよね。農地法のことや、どの地目にすればよいのかなど、今後のことにも目を向けて、「困っていること」「希望の納期」などを聞き出してくれる土地家屋調査士を選びましょう。
4.連絡がすぐに取れる
増築登記を申請した後も、途中で疑問や悩みなどが出た場合でもあると思います。登記の進捗なども気になりますよね。
連絡がすぐに取れて、必要に応じて連絡をくれる土地家屋調査士へ依頼すると安心です。
個人事務所ですと、測量現場に毎日出ていたり、事務所へ電話しても転送電話になっていたりすぐに進捗が確認できなかったり、連絡がつながらなければ不安になります。大手事務所(土地家屋調査士法人)の場合では、スタッフが常に事務所へ常駐しており、いつでも連絡が取れるので安心です。
以上のようなポイントを参考に、土地家屋調査士へ依頼しましょう。
7 まとめ
増築工事をしたら増築登記(=建物表題部変更登記)は必要です。
増築登記をやっておいた方が良い理由には以下のようなものがあります。
1 不動産登記法で課せられている義務を果たすことができるから
2 不動産登記法で課せられている過料を免れることができるから
3 スムーズな売買につながるから
4 スムーズな相続につながるから
5 リフォームローンがスムーズに受けられるから
6 新しい建物図面ができ範囲が明確になるから
7 増築後の面積が登記に反映され自分の権利が守られるから
床面性に変動があるような増築工事で、増築登記が不要なケースは一切ありません。10㎡以下でも必ず登記が必要になります。
増築登記は以下の流れで進んでいきます。
増築登記は一般の方にはハードルが高いため、増築登記の専門家である土地家屋調査士へ依頼しましょう。
増築登記にかかる費用と期間は下記のとおりです。
依頼先 | 費用の一例 | 期間 |
土地家屋調査士 | 15~25万+税 *床面積等により変動 | 依頼してから約2~3週間 *状況により変動 |
自分でやる | 交通費、プリント代など | 1か月以上かかる場合も |
増築登記を専門家へ依頼する時は下記のようなポイントを確認して依頼しましょう。
2.様々な事情について話を聞いてくれる
3.わかりやすく丁寧に説明をしてくれる
4.連絡がすぐに取れる
以上、この記事では増築登記をやっておいた方が理由を中心に解説してきました。
増築登記は非常に大切な登記で財産保全するうえで根幹となる手続きです。自分の大切な不動産を守るため、安心安全な不動産にするため、しっかりと確認して増築登記を行って欲しいです。増築登記を行い現状と登記を一致させる手続が完了した時は、真の安心を得る瞬間でもあります。
増築登記がまだだったという方、増築登記がまだだった建物を相続したという方、これから増築工事をする方など、本記事の内容を是非参考にして増築登記を実施し、安心安全な不動産へと変化させましょう。