購入を検討している建物に増築未登記の部分があるようだが、不動産業者に聞いても登記できないと言われた。増築してから10年以上経過している状態で、売主も相続でこの建物を引き継いでいて、当時の資料や経緯は良く分からないと言っている。
このような建物を本当に購入しても安全なのか、登記はしなくても良いものなのか。どうすれば登記できるのか“まずは基本的なことを知りたい”という方もいらっしゃるでしょう。
増築された部分について未登記であるということは、簡単にまとめますと
・増築部分を誰が所有しているのかが国に届けられていない
・誰の所有物かはっきりしていない可能性がある
・後で誰かが、その増築部分は私のものだよと言ってくるかもしれない
このような心配が出てくる状態であると言えます。
しかし、増築未登記に関する疑問をインターネットで調べてみても、いろいろなサイトが出てきてどの情報が正しいのか判断すればいいのかわからないのではないでしょうか。
そこで、本記事では、増築未登記とはどのような状態のことで、どのようなリスクがあるのかについて、数々の中古戸建の未登記部分を登記した経験のある土地家屋調査士が解説致します。
1 増築未登記の中古戸建とは?
増築未登記の中古戸建とは、国に届けてある階数や床面積から変更した(増築した)のに、そのことを届けていない状態の建物のことです。
現在の法律では、増築したときは国へ届ける義務(申請義務)があるのですが、これを知らずにやっていないということです。
リフォーム工事の一例をあげてみますと
・平家を2階建にした
・リビングを広げた
・サンルームを作った
・屋根裏を改装して部屋にした
・ロフトを作った
・離れを建築した
・しっかりとした物置を作った
このように色々なリフォーム工事で床面積を広げることはたくさん行われていますが、下記のようないくつかの要因で、登記されていないことがほとんどです。
・工事は現金でされることが多い
・リフォーム業者さんも登記をしなければならないことを知らない
・所有者さんも登記しなければならないことも知らない
・役所も固定資産税だけは課すが登記義務のことは言ってくれない
登記がされていない状態の建物を購入するとなるとどのようなリスクがあるのでしょうか。
考えられるリスクを次章で解説します。
2 増築未登記の中古戸建の購入リスク
増築未登記の不動産を購入するには、色々なリスクが考えられますが、増築登記の専門家である土地家屋調査士が、実際の売買などの場面で良くみかけるリスク、一般的な目線として考えられてられるリスクを解説します。
(誰かが所有権を主張してくるリスク)
増築未登記の中古戸建を購入することのリスクを簡単に考えますと、買ったあとで誰かが、「その登記されていない増築部分は私のもの」と所有権を主張してくる可能性があると考えられます。
国に届けていない増築部分がある(=未登記)、ということは誰がその増築部分の所有者なのかがはっきりしていない状態になっているので、買った後に誰かが何か言ってくる可能性がゼロではありません。
(融資手続きがスムーズにいかないリスク)
これは金融機関さんにもよると思いますが、増築した部分が未登記のままだと購入するための融資手続きがスムーズに受けられなかったりする可能性もあります。
増築が未登記でも融資する金融機関もあるかもしれませんが、多くは登記を求めるでしょう。
現金で購入した場合などは誰からも指摘されないことが多く、増築未登記部分があることに気が付きにくいのですが、今後手放すことになった時に、買い手側の金融機関から指摘されて気が付くことも多いのです。
(建ぺい・容積率違反を把握できないリスク)
その他にも、増築部分が未登記だと、現在何㎡なのかがはっきりしないため、建築基準法の建ぺい率や容積率に関わってくる問題も発生すると考えられます。
建ぺい率や容積率に関わるということは建築基準法に違反しているだけではなく、またまた売却する際に問題となることが多いのです。
金融機関としては法令に適合していない物件に融資することができない規定になっていることが多いからです。
(固定資産税が未払い状態のリスク)
固定資産税についても、支払っていなかったりするとその分がいきなり請求されたりするかもしれません。
どこまで遡って請求されるかは、役所の判断になると思いますが、買ったとたんに想定していなかった税金の請求が来るのは怖いですね。
評価証明書などを見て、増築部分が課税されているかのチェックはしましょう。
コラム:増築と聞いたら専門家は頭の中で何を考えるか。
ひとくちに増築と言っても法的には色々と考えることがあり、民法・不動産登記法・区分所有法などが状況に応じて適用となることがあるため、専門家の頭の中では様々なことが考えられています。
①主従の建物
主従の建物は物置や離れなどを不動産登記法で1個の建物として(附属建物)として扱うことがあります。増築部分は主従の関係にあるか、附属建物は主の効用を高めるものかなどを検討。
②対抗要件
不動産の権利を取得したかどうかについては第三者に対抗するには不動産登記法の登記をする必要があると民法には規定されています。買った物件については、増築部分も含めて
表題部・権利部ともに登記をすることが大切ですね。
③付合(ふごう)
ここは少しテクニカルな部分ですが、付合という考え方が民法上あります。増築部分のお金を誰が出したのか壁をとっぱらいリビングを増床し新たな壁を構築したとなると簡単には分離することができません。分離するには一部を壊し過大な費用もかかります。このように主従の関係を持って結合した状態を付合したと考えます。付合したかどうかについては、もちろん争いのあることも多いでしょうが、一般的にこのような状態であれば、付合したと考えられるようです。増築費用を所有者でない人が出していたとしても付合していれば元の所有者に所有権が帰属します。お金を出していないのに所有権を得られるとなると不当利得の問題となっていったりと、ここまでくると土地家屋調査士の範疇を超え弁護士さんに解決してもらうしか手がなくなります。ややこしいことだらけです。増築部分は速やかに登記するに限りますね。
④区分性はあるか
増築部分に区分性があり単独で建物の利用ができるような場合、主従の関係にあるとは言えず、その部分はお金を出した人が元の建物登記とは区分して登記することができます。2世帯住宅として外階段・玄関をつけて2階をまるまる増築したり、建物内でつながっていても、玄関を別にしてキッチン・トイレなども別であれば、区分登記ができます。区分しない場合は共有物となります。
(民法の一部抜粋)
(主物及び従物)
2 従物は、主物の処分に従う。
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
第二百四十二条 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
第二百四十七条 第二百四十二条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
2 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。
(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第二百四十八条 第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。
3 増築未登記の中古戸建についてのQ&A
増築未登記・・・基礎編
実際に未登記部分について親戚(相続人)同士で争いとなって裁判となった事例もみかけました。
自己用の住宅で使っていたような物件の増築リフォームであれば、それほど問題は起こらないでしょうが、アパートや戸建賃貸など所有者が誰なのかあやふやなものは親戚間で費用を出した出さないで争いになっているのを見かけるため、注意が必要です。
第三者に所有権を対抗というと少し難しいですが、簡単に言うと、私の建物はこの範囲で所有していますというものを登記して公にしておけば安心ということです。
土地家屋調査士に増築登記を依頼すれば、図面作成もされ、その図面も国に登録(登記)がされますから、どのような建物を買ったのかが明確になります。
慣れていないと相談に行く時間、図面作成の時間、書類収集作成する時間などで時間がかなりとられますので、時間がかかることを想定しておく必要があります。
増築未登記の専門家である土地家屋調査士へ依頼した場合は概ね15万円前後で、大きさや書類の有無、現場の状況により変動します。
増築未登記・・・依頼編
依頼先は、土地家屋調査士法人、土地家屋調査士です。
法人でも個人でも同じことです。
土地家屋調査士は不動産の表示に関する登記の専門家で、増築登記(建物表題部変更登記)申請の代理ができるのは土地家屋調査士のみとなっています。
増築登記(建物表題部変更登記)を実施するには、関係者と日程調整を行い、増築部分の所有権の認定から法務局との協議調整を行う必要があり、確実に期日までに増築登記(建物表題部変更登記)を実行する必要があります。
したがって、依頼する時は、下記のようなポイントをしっかり確認しましょう。
良い選び方
1.信頼できる
2.親身になって相談してくれる
3.見積額、注意点を示してくれる
悪い選び方
1.事務所が近いことだけで選ぶ
2.費用が安いことだけで選ぶ
3.適当に選ぶ
「土地家屋調査士法人」とは何か?法人と個人事務所事務所を徹底比較
コラム:増築登記は土地家屋調査士法人えんへ
土地家屋調査士法人えんは、これまで数多くの増築登記を行ってきており、どのような増築登記であっても対応できます。お手持ちの書類が不足していたり、又は全く何もない場合、不動産会社より登記できないと言われたりした案件でも、最初から調査を行い、必ず登記できるよう進めていきます。
増築未登記・・・調査編
(法務局へ提出された増築登記の調査記録、ピンクの部分が増築部分)
増築登記については下記の記事も参考にしてみてください。
『増築したら必ず登記をやる!』やるべき理由を土地家屋調査士が解説
(増築された屋根裏部屋、3階部分)
これは、増築された屋根裏で高さが1.5m以上あるため床面積に入ります。
ご近所に迷惑がかかることはほとんどの場合でありません。
ごくまれに所有権を示す書類が不足しているケースで所有者の方が亡くなっている場合など、法務局との協議のなかで、ご近所の方々に事情を聴くこともゼロではありませんが、ほとんどのケースでは近隣の方へお話を伺ったりすることはありません。
年間数多くの増築登記を申請している土地家屋調査士法人えんの場合でもここ10年で1度あったレベルです。まず、ご近所の方へご迷惑がかかるようなことはありませんのでご安心ください。
4 まとめ
増築未登記の中古戸建とは、国に届けてある階数や床面積から変更した(増築した)のに、そのことを届けていない状態の建物のこと。
増築未登記の建物の購入するリスクをまとめると、概ねこの4つに集約されると考えています。
(誰かが所有権を主張してくるリスク)
(融資手続きがスムーズにいかないリスク)
(建ぺい・容積率違反を把握できないリスク)
(固定資産税が未払い状態のリスク)
増築未登記の中古戸建を購入する時は、必ず登記を行ってから購入することで、安心安全な建物として購入できるということになります。
もちろん、状況次第では、購入してからすぐに登記しても良いでしょう。
ダメなのは、増築未登記のまま購入しても放置していることです。
是非本記事を参考にして、ご自身の建物に増築未登記の部分は無いか、これから購入検討している建物に増築未登記部分は無いかを注意してみてください。
さらに、土地家屋調査士へ相談してみることにより、必ず登記の重要性や登記の方法や手順が理解できるようになります。
このノウハウをもとに、是非安心安全な不動産を手にしてください。