筆界特定書(ひっかいとくていしょ)が手元に届いたけど、何が書いてあるのか分からない。文字だらけで全く読み解けないといった方も多いのではないでしょうか。
筆界特定書とは、土地の境界で、もめたときなどに行われる筆界特定制度における判決文のようなもので、法務局(行政)が筆界の位置を特定した理由などが書いてある書類です。
筆界特定図とセットで通知されていますので、筆界特定書と筆界特定図、関係資料のコピーをそれぞれとった後に、一緒に見比べながら、一つ一つマーカーをつけるなどして確認していくことにより、どのように資料及び筆界が検討され特定されていったのかが分かるようになります。
本記事では、筆界及び筆界特定についての専門家である土地家屋調査士が、筆界特定書とは何か、実際の筆界特定書を一部抜粋して内容について画像付きで詳しく解説いたします。
是非、最後まで読み進めていただき、筆界特定書を読み解き、自分の土地の筆界が特定された経緯について明らかにしてください。
1 筆界特定書とは
筆界特定書とは、法務局(行政)担当者の筆界に関する意見が書いてある書類のことです。
結論とどのような理由で特定したのか、ということが書いてあります。
それでは、より詳しい内容についてみていきましょう。
1-1 定義
わかりやすく言いますと、筆界特定書とは土地の境界が不明な場合、法務局(行政)の担当者に、自分の土地がどこからどこまでかの判断をしてもらい、その意見の結論と理由が書かれた書類のことです。
筆界特定書が作成されたら、関係者へ筆界特定書の写しを郵送などで送付されることになっています。
第百四十四条 筆界特定登記官は、筆界特定をしたときは、遅滞なく、筆界特定の申請人に対し、筆界特定書の写しを交付する方法(筆界特定書が電磁的記録をもって作成されているときは、法務省令で定める方法)により当該筆界特定書の内容を通知するとともに、法務省令で定めるところにより、筆界特定をした旨を公告し、かつ、関係人に通知しなければならない。
(法務局の筆界特定登記官から通知された筆界確認書の最終ページ)
1-2 内容
そもそも筆界特定書は、不明になっていた筆界を明らかにする目的ですので、法務局(行政の)判断として最終的にどの点とどの点を結んだ線なのかが記載されます。
また、その判断に至った理由や参考にした資料の解説なども記載されます。
セットで交付された筆界特定図面を手元に置いて、図面の中の記号や数字を確認してください。
画像と共に筆界特定書の内容を解説していきます。
それでは、みていきましょう。
表題・・・まず最初に『筆界特定書』の表題を書いたのちに
手続番号を記載します。
手続番号・・・受付の年と、受付順に番号が振られます。
手続番号は最終的に登記され、登記簿に記録されます。
登記簿に記載された手続番号・・・(例)平成〇〇年第〇〇号
対象土地・・・どの土地と、どの土地の筆界について特定したかが書いてあります。
対象土地 甲(こう)は申請人側の土地になります。
対象土地 乙(おつ)は、争いのある相手方の土地になります。
申請人・・・申請人の住所氏名が書かれます。共有地の場合は複数名書かれます。
申請代理人・・・土地家屋調査士など、代理人の表示を記載します。
中身に入っていきます。
まず、結論が記載されています。
結論・・・要約すると K1点とK2点とを直線で結んだ線 との判断です。
最初に結論をもってくる書き方は裁判での判決文と似ていますね。
(裁判での判決文の例)・・・主文 本件上告を棄却する 理由 〇〇
筆界特定図面中とありますので、筆界特定図面を手元に置いてK1とK2を探しましょう。
(筆界特定図面の一部抜粋)
結論の後は、理由が述べられています。
事案の概要・・・まず、今回の筆界特定に至った背景などを書きます。
この事例では、土地の境界についての立会協力が得られず筆界特定したということですね。
対象土地及び関係土地の現況並びに所有状況等・・・どんな土地なのか、どのような使われ方をしているか、どのようにして所有することになったかが書いてあります。
対象土地・・・申請した人の土地と、境界が不明になっている相手の土地です
関係土地・・・対象土地に接するお隣さんの土地で間接的に関係してくる土地です
どのようにして所有権を取得したかは、登記簿に書いてあります。
今回は相続で土地を手に入れたみたいですね。
対象土地の沿革・・・どのようにして、対象土地や関係土地が出来たのかが書いてあります。
どうやら分筆、合筆などが繰り返されてできたみたいですね。
分筆や合筆についての詳しい解説は下記の記事を参照してみてください。
分筆とは?安全確実な登記方法について土地家屋調査士が徹底解説!
申請人及び関係人の主張・・・関係者それぞれの主張や意見が記載されます。
筆界特定手続きでは、申請人及び関係人に対して意見を述べる機会が設けられますが、欠席した方は、欠席により不明となってしまいます。
今回関係人Aは欠席したようですね。
ここまでに、筆界特定登記官の意見は無く、全て事実関係の整理になります。
そして、ここからようやく筆界特定登記官の検討した意見が述べられていきます。
1,地図に準ずる図面、2,土地境界立会確認書・・・と順に筆界を特定するのに必要となる資料を一つ一つ検討していきます。
3,地積測量図の検討
今回の例の土地では、分筆がたくさんされていたようですので
分筆の際に提出された多くの地積測量図の分析、検討をしていますね。
土地家屋調査士は普段の業務においても日々このような検討を行い、土地の筆界を特定しています。
内容が少々難しくなってきますので、もし各種資料の読み方や検討内容について不明な点が生じた場合は、資料を持って専門家に相談した方が良いでしょう。
地積測量図についての詳しい解説は下記の記事を参考にしてください。
「地積測量図の見方がわかる」作成者である土地家屋調査士が徹底解説
【すぐわかる】地積測量図と公図の疑問を土地家屋調査士が回答します
地積測量図がない土地からある土地へ!土地家屋調査士が解説します
地積測量図について、境界ポイントの点間距離の数値やその精度についての分析を進めていきます。
この部分については、我々専門家でも、蛍光マーカーと対応する図面を同時に参照しながらどの部分のことを言っているのか、確認しながら読み進めていきます。
各種資料の検討部分が一番ボリュームがあり、判断理由の重要な部分になります。
各種資料の検討が終わると
いよいよ、筆界についての判断がされていきます。
今回は、分筆登記に添付された地積測量図を採用するとの判断に至ったようですね。
結語・・・最後に、結論の通り筆界を特定した旨を示して締めくくります。
以上が筆界特定書の内容となります。
次にどの場面でこの特定書を使うのかについて解説します。
1-3 誰が、いつ、どういう時に使うのか
筆界特定書は申請人である土地所有者へ交付されるものですから、申請人が今後の売買や分筆、境界標を設置する場面などで使用します。
【売買】
売買では、必ずしも買主に提供する必要はなく、契約条件によりますが、土地の謄本を見れば筆界特定がされた土地かどうかが分かるため、買主側でも筆界特定書は取得することができます。
過去に何かあったのか、境界でもめたのかなど聞かれる可能性は高いです。
【分筆】
土地を分割しようとした際は、土地家屋調査士に対して分筆登記を依頼することになりますが、この場合には必ず筆界特定書を土地家屋調査士へ渡しましょう。
土地家屋調査士はその土地の登記簿を見れば筆界特定が申請された土地かどうかはわかりますが、相談の段階から筆界特定書を渡して、隣地と境界について争った経緯などを説明すると分筆に関する手続きがスムーズに行くでしょう。
【境界標の設置】
筆界特定されただけでは、境界標の設置はされません。
境界標を設置したい場合は、土地家屋調査士へ依頼しますが、筆界特定書及び筆界特定図を渡して、お隣さんの承諾を得たうえで特定された位置へ境界標を設置してもらいましょう。
2 筆界特定書とセットで取得する筆界特定図について
筆界特定書とセットで取得する筆界特定図について解説します。
筆界特定書の文中に使用される用語の意味は以下のようになります。
対象土地は不明になっている土地(=争っている同士の土地)のことです。
対象土地甲・・・甲=筆界特定を申請した方
対象土地乙・・・乙=筆界特定の申請の相手
関係土地1、関係土地2・・・対象土地の不明(争い)に巻き込まれて判断に影響する、お隣さんの土地を関係土地として表します。
筆界特定されたポイントをK点で表示し、本件筆界として距離も表示します。
こちらの筆界点間の距離は、10メートル46センチ1ミリ(単位:メートル)です。
特定されたK点で表示されたポイントの座標値と境界標の種類も記載されています。
その他、測量に使用した各ポイントの座標値の記載があります。
器械点 ⇒ 測量する器械を設置したポイント=T点
引照点 ⇒ 現地各ポイントを復元及び点検するために設けられた点=S点
計算点 ⇒ 各種資料などを基に復元計算した点=C点
確定点 ⇒ 筆界特定やその他確定した点=K点
その他の記載事項です。
測量年月日 ⇒ 測量した日
世界測地系 ⇒ どの平面直角座標系か
縮尺係数 ⇒ 世界測地系によって決まりがあります
筆界辺長 ⇒ 読み方の表示(凡例)
手続番号 ⇒ 筆界特定書と同一のものを記載
縮尺 ⇒ 図面のサイズ
世界測地系については下記の記事及び国土地理院のサイトを参照してください。
GNSS測量を専門家が徹底解説!世界測地系で安心安全な土地へ
3 まとめ
筆界特定書の中身から筆界特定図面について解説してきました。
筆界特定書は筆界特定書とは、法務局(行政)=筆界特定登記官の筆界に関する意見が書いてある書類のことです。
筆界確認書には下記のことが記載してあります。
② 対象土地
③ 申請人
④ 申請代理人
⑤ 結論
⑥ 理由
⑦ 結語
⑧ 筆界特定登記官の表示+公印
長い時間をかけてようやく出てきた答えである筆界特定書ですが、いざ手元に届いてみると大変読みづらく、理解しづらいものです。
しかし、内容を分解して一つ一つ読み解いていけば、難しいものではありません。どうしても、理解できない箇所があれば、申請を頼んだ代理人若しくは土地家屋調査士へ聞いてみるとよいでしょう。
この記事が、皆様の大切な不動産を安心・安全な価値にする一助になれば幸いです。