「予防測量」という言葉は聞いたことありますか?
初めて聞くという方がほとんどだと思います。
それもそのはずです。
「予防測量」は、我々土地家屋調査士法人えんが考えた言葉でこの度商標登録した言葉です。
最近では、相続で「終活」という言葉が流行っています。
残された人達のために、生前に遺言書の作成等を行っておく。
とても大切なことですし、絶対にやるべきだと思います。
しかし、大事なことを忘れている方が非常に多く、そのことによって相続された方が大変な思いをするケースもあります。
忘れている事とは、土地の境界をしっかり確定させておくということです。
遺言書で、この土地に東側○○○㎡は長男に西側○○○㎡は次男に相続させるとあっても土地を分割する分筆登記には土地の境界確定が前提条件となります。
この境界確定測量は時間も費用もかかります。
また、お隣の方が納得されない場合には、分筆登記ができないといったケースになる場合もあり得ます。
お子さんやお孫さんが相続で困らないように「終活」をされていると思います。
その「終活」の中に「予防測量」を入れて、土地を安心・安全な価値にしてください。
多くの方の財産の中で最も高価なものは土地という場合は多いです。
また、お子様を育て、お孫さんと遊んだ思い出のあるのも土地です。
その思い出の詰まった大切な土地を価値あるものにしておくことこそ「終活」だと思います。
備えあれば憂いなしです。
「予防測量」を理解して、大切な土地を安心・安全な価値にしてください。
最後までお読みいただければ幸いです。
目次
1 予防測量とは
予防測量とは、必要に迫られてから測量を行うのではなく、自分の財産をしっかり保全する目的で事前に測量をしておこうというものです。
弊所土地家屋調査士法人えんが考えた言葉で、予防医療、予防歯科と同じように、売却・相続後に兄弟姉妹で分ける分割など必要に迫られてから測量を行うのではなく、何かあった時にすぐに動き出せるよう事前に測量をしておこうというものです。
我々土地家屋調査士は、土地境界確定を業として行っていますが、依頼されるほとんどが必要に迫られてです。
もちろん必要に迫られてから依頼を受けても業務を行う事は可能ですが、例えば相続なので相続税を支払うために土地を売却する場合などは納税の猶予期間が10カ月しかなく、その期間内に境界の確定をすることができない場合もあり得ます。
そのほかにも売買の場合の多くは、決済日が決まっていて境界確定が売買条件になっている場合が多いです。
このような場合において、お隣が境界について承諾しないので境界が確定できない場合もあり得ます。
実際にあった事例ですが、都内で土地を売却したい方が、不動産屋をとおして売買契約が成立しました。
契約は、土地の境界確定が条件となっており、境界確定測量を土地家屋調査士に依頼しましたがお隣が境界の承諾を拒んだため境界が確定しませんでした。
買主は、決済予定日までに確定測量が終わらなかったことを理由に契約の解除と売主に違約金を請求するということがありました。
買主にとっては、売主が約束を守らないのが悪い!
売主にとっては、不動産屋さんが悪い!
不動産屋さんにとっては、境界を決められなかった土地家屋調査士が悪い!
本当は誰が悪いのでしょうか?
これは、立場によって悪者が変わっているだけだと思います。
このような事がおこらないようにするためにも事前の境界確定が必要となります。
「必要に迫られてからやる」では、安心・安全とは言えません。
我々土地家屋調査士法人えんがおすすめする「予防測量」を全国的に広めていき、いかなる状況になっても安心できる安全な土地が増えることを望みます。
今は、全く認知されていない「予防測量」という言葉ですが、全国の土地家屋調査士が本気になって啓蒙活動を行えば必ず浸透し、すべての土地を安心・安全な土地にできると考えています。
2 予防測量の種類
予防測量の種類は、2つあります。
①土地境界確定測量
②土地現況測量
それぞれについて詳しく解説していきます。
2-1 土地境界確定測量
土地境界確定測量は、財産界である土地の境界(筆界)を明らかにする測量です。
予防測量は、この測量を行うことが望ましいと考えています。
土地の境界は、2つの意味があります。
Ⓐブロックや構造物などで囲まれてお隣との方とお互いに認識している所有権界
Ⓑ本来の財産界である筆界
土地境界確定測量は、Ⓑを明らかにする測量です。
土地境界確定測量と言いますが、新たに境界(筆界)を決める訳ではありません。
土地の筆界は、土地が出来た時から決まっているというのが正式な考え方で、その決まっている筆界を特定して明らかにするのが土地境界確定測量です。
非常にわかりにくいと思いますが、境界(筆界)線は、目に見えていませんが、実は存在しています。この存在している境界線の位置を土地家屋調査士が調査及び測量して特定する作業が土地境界確定測量です。
そして、特定した境界線を見える化するのが境界標となります。
ここまで読んでいただき、多くの方がそれなら相続が発生してから、売買が決まってから土地境界確定測量をやればいいのではと思われると思いますが、実は土地境界確定測量は時間がかかる測量なのです。
ここで土地境界確定測量の流れを解説します。
下図が流れとなります。
資料収集から始まり境界確認書の取交しを行い納品まで様々な作業があります。
土地の状況によって時間は異なりますが一般的な事例をご紹介します。
・一般的な事例
事例1:道路種別が公道(確定済)で隣接地の数が4軒くらいの場合
1カ月半~2カ月事例2:道路種別が公道(未確定)で隣接地の数が4軒くらいの場合
3カ月~5カ月事例3:道路種別が私道(所有者が少数)で隣接地の数が4軒くらいの場合
1カ月半~2カ月事例4:道路種別が私道(所有者が多数)で隣接地の数が4軒くらいの場合
3カ月~
このように土地の境界を確定させるためには時間がかかります。
相続が発生したから土地の境界確定を行う、売買が決まったから土地の境界確定を行うでは納税までや、すぐに売却したい等では間に合いません。
期限が決められた場合の測量は、お隣さんに承諾印をもらう都合、お願いする立場がより強くなります。こちらは急いでいても、お隣さんにとっては急いでいるわけではありません。
お隣さんから『自分の土地も確定測量しますので、じっくり正確に決めましょう』と言われてしまえば、すぐに境界確定をすることはできません。
だからこそ、事前の土地境界確定測量を行っておくことが非常に重要となります。
土地境界確定について詳しくお知りになりたい方は、「土地の価値を高めるための境界確定のすすめ」をご参照ください。
予防測量に適した土地境界確定についてお知りになりたい方は、「土地家屋調査士法人えんが行う境界確定を土地家屋調査士が解説!」をご参照ください。
2-2 土地現況測量
土地現況測量は、土地のブロックや構造物等を測量して現況の面積を算出する測量です。
「予防測量」という観点では、あまりおススメできない測量です。
しかし、土地境界確定測量は費用がかかるため、先ずは土地現況測量で現況の面積を把握しておきたいという方には有効な測量と言えます。
土地現況測量と土地境界確定測量に大きな違いをまとめると
土地現況測量 | 土地境界確定測量 | |
境界(筆界)の確定 | できない | できる |
境界標の設置 | できない | できる |
お隣との筆界確認書 | 取り交わししない | 取り交わす |
図面 | 現況測量図ができる | 境界確定図ができる |
登記 | できない | できる |
面積 | 現況面積を算出 | 確定面積を算出 |
このような違いがあります。
相続で土地を兄弟で分けたい、売買を考えているという方は、最終的には土地の境界を確定する必要がありますので予防測量として土地境界確定測量を行うことをおススメします。
土地現況測量について詳しくお知りになりたい方は、「現況測量なら土地家屋調査士法人えんが行う現況測量パック」をご参照ください。
現況測量図について詳しくお知りになりたい方は、「初心者でもわかる!現況測量図の見方を解説」をご参照ください。
3 その他の予防策
その他の予防策としては2つがあげられます。
①土地地積更正登記
②筆界特定制度
これらについて解説していきます。
3-1 土地地積更正登記
予防測量の最終着地はこの「土地地積更正登記」だと考えています。
多くの方が、土地の登記簿(全部事項証明書)に記載されている面積が正しい面積だと思われています。
しかし、実際測量をして境界確定を行うと多くの場合面積が異なります。
このような場合に法務局に対して「土地地積更正登記」を申請することができ、地積更正登記を行うことにより正しい面積に更正され、さらに法務局に「地積測量図」が備え付けられることになります。
この地積測量図は、誰でも取得することができる図面となっています。
言いかえれば、公に自分の土地の境界を公開している事となりますので、安心・安全な土地であるということになります。
土地地積更正登記について詳しくお知りになりたい方は、「土地地積更正登記とは?正しい面積に修正して自分の土地を守る方法!」をご参照ください。
土地地積更正登記のメリットとデメリットについて詳しくお知りになりたい方は、「地積更正登記のメリットとデメリットは何か?土地家屋調査士が解説!」をご参照ください。
土地の面積について詳しくお知りになりたい方は、「意外と知らない土地の面積~あなたの土地の面積は正しい面積か?」をご参照ください。
3-2 筆界特定制度
筆界特定制度は、土地境界確定測量の救世主です。
我々が「予防測量」を推奨する最大の理由は、境界が決まらないことを防ぐことにあります。
土地家屋調査士が土地境界確定測量を依頼され境界(筆界)を特定してもお隣との境界確認で了承いただけない場合があります。
土地家屋調査士は、しっかりとした資料調査や測量を行い、正しい境界(筆界)の位置を特定してもお隣が了承しないと確定に至らないというのが現在の通念です。
このようにお隣が了承しなかった場合は境界が確定できないということになり土地の分割や売買に支障をきたします。
しかし、このような場合でも「筆界特定制度」を利用すれば行政が筆界を特定してくれます。
通常の土地境界確定測量では、お隣と境界の確認を行い「筆界確認書」を取り交わします。
筆界特定制度では、この「筆界確認書」に代わり「筆界特定書」が公布され境界(筆界)の証明ができます。
それなら相続が発生してから、売買が決まってから土地境界確定測量を依頼して決まらなければ「筆界特定制度」を使えばいいのでは?
このように思われると思いますが、「筆界特定制度」はとても時間がかかります。
この記事を書いている2022年8月でも1年~2年かかると言われています。
だからこそ「予防測量」が必要なのです。
筆界特定制度について詳しくお知りになりたい方は、「境界線トラブルもこれで解決!筆界特定とは?筆特をわかりやすく解説」をご参照ください。
筆界特定書について詳しくお知りになりたい方は、「筆界特定書とは?筆界の専門家である土地家屋調査士が解説します」をご参照ください。
筆界確認書について詳しくお知りになりたい方は、「専門家が解説!筆界確認書に署名・押印することの意味」をご参照ください。
4 まとめ
予防測量について解説してきました。
我々土地家屋調査士法人えんが考えた言葉なのでなじみのない言葉だと思います。
しかし、土地家屋調査士である我々だから「境界確定」の大変さを知っています。
虫歯になってから歯医者に行ったのではダメなことを歯医者さんは知っているから「予防歯科」は認知される。
相続が発生してからでは「争族」になってしまい、兄弟の仲が壊れることを知っているから「生前対策」を行う。
このように認知されていれば人は事前に準備を行います。
多くの方に土地の境界確定が事前に必要だということを知って欲しいと思い、この記事を書きました。
「予防測量」というワードが多くの方に知り渡れば境界で困る方も減ると思います。
この記事を読んでいただいた土地家屋調査士、測量士、各士業の先生、不動産業者の方、建築業者の方、その他の方是非、皆様も「予防測量」というワードを広めていただき、境界問題で困る方がいなくなる世界を一緒に作りましょう。
我々だけでは難しいとは思いますが、「予防測量」に共感いただけた同業者の方がいましたらご連絡いただければ嬉しいです。
一緒に何らかの行動をやっていきたいと思います。
info@en-groups.com
この記事が、皆様の大切な不動産を安心・安全なものにする一助になれば幸いです。