土地家屋調査士が考える『分筆ができない困った土地』の対処法とは?

土地の分筆を依頼したものの、『隣地が行方不明で捕まらないです』『隣地が立会拒否していてハンコがもらえません』このようなケースで分筆ができなくなると、とっても困った状況になりますよね。

分筆ができないと言われてしまうと、どうにも身動きがとれない状態になります。売買できない、建築の為のローンが組めない、相続で分割ができないなど、計画が進まなくなってしまいます。

分筆ができない理由は様々ですが、主にはお隣の土地所有者と筆界の確認ができず、境界確定が出来ないケースがほとんどです。行方不明だったり、空き家で放置されていたり、折り合いが悪く立会や筆界確認書への押印を拒否されたり、何度訪問しても無視(居留守)をされたりと、お隣との関係で分筆ができない場合がほとんどでしょう。

お隣との境界確認が出来ないケース
での有効な対処法は筆界特定制度の活用です。
筆界特定制度は平成17年の不動産登記法の改正により出来た制度ですが、法務局が筆界を特定し分筆ができるようになります。筆界特定制度以外にも境界確定訴訟や、行方不明の場合には不在者財産管理人選任申立て、清算人選任申立てなどの対処法もあり、時間や費用がかかりますが、分筆ができるようになります。

本記事では、土地の筆界及び分筆登記の専門家である土地家屋調査士が分筆できない土地の理由とどのような場面で困るのか、またその対処法について解説します。

1 分筆できない土地とは?

分筆できない土地とは、お隣さんとの筆界の確認が出来ない土地のことです。

分筆をするには、お隣さんと筆界の確認をして、主に筆界確認書を作成して法務局へ提出することにより完了します。
分筆に必要な筆界確認書が準備できない=お隣との筆界の確認が出来なければ分筆をすることができません。

筆界の詳しい解説については、下記の記事を参考にしてください。
「筆界」「境界」の違いを解説!思わぬトラブルを防止・解決する方法

なお、登記実務上は0.01㎡を下回る土地(0.009㎡など)は座標計算において作成することはできますが、登記記録に表示することができないことから分筆できないとされています。登記記録では小数点以下第二位までを表示することとされているからです。

不動産登記規則
(地積)
第百条 地積は、水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、一平方メートルの百分の一(宅地及び鉱泉地以外の土地で十平方メートルを超えるものについては、一平方メートル)未満の端数は、切り捨てる。

 

2 分筆できない理由

分筆できない理由は、お隣さんとの筆界の確認が出来ないからですが、その理由も色々あります。

この章では、筆界の確認ができない具体的なパターンについて解説し、どういった場合に筆界確認が出来ず、分筆できない土地となってしまうのかを解説します。

2-1 お隣さんが『境界立会を拒否』

お隣さんに境界立会を拒否されると分筆できない土地となります。

在宅していることは確認できても無視をされてしまう状態も拒否同様に分筆できない土地です。お手紙を入れても返事が無い、声をかけても応答しない、こういった方は現実にいます。

(立会を拒否される具体例)

・昔から仲が悪い
・親の代から折り合いが悪い
・昔、お隣も立ち会いを拒否された
・とにかく関わりたくない
・ゴミの出し方が気に入らない
・室外機の風がこちらに来て迷惑
・居留守で全く反応しない
・境界の位置の認識が違う
・建築時にもめた

など、理由や状況は色々なケースがありますが、総じて立会を拒否され筆界確認に協力していただけない場合は分筆できない土地になります。

2-2 お隣さんが『行方不明』

お隣さんが行方不明であれば分筆できない土地となります。

最近は空き家も増えています。また、相続登記や住所の変更登記をしていないまま長らく放置された土地は、戸籍調査をしても追えず、誰が所有者なのかまったく分からないケースがあります。

近所の方に聞いて回ってもどこに住んでいるのか分からないことも非常に多いです。

2-3 お隣さんが『海外に居住』

お隣さんが海外に居住(仕事)しており連絡先が分からなければ分筆できない土地となります。

住民票には転出した国名が記載されるだけでそれ以上は追えないのです。近隣の方へ伺っても海外出張でしばらく日本を離れると聞いている方はいるでしょうが、住所地や連絡先まで知っていることはほとんどないでしょう。

2-4 お隣さんが『存在しない法人』

お隣さんが存在しない法人で法人の清算人や、元取締役の方々と連絡がつかない場合には分筆できない土地となります。

昭和初期に開発された分譲地で道路を所有したまま清算している法人で代表者の行方も追えない場合や、清算手続きすら行っていないまま倒産している会社などは案外多いです。

コラム:最低敷地面積・建築協定、2m接道と分筆について

建築基準法の関係で、最低敷地面積・建築協定の中で〇〇㎡以下の土地は建築が認められないとされているエリアがあります。これによって〇〇㎡以下の面積で分筆してしまうと建物が建てられない土地になってしまうということがあります。

また、建築基準法の道路に2m接道する必要があり、このような規制も分筆する際には考慮が必要になります。

これらの土地は、分筆ができない土地というよりは、分筆することにより建築できなくなってしまう土地と言えます。

不動産登記法の基準を満たし筆界確認ができればどのような分筆の仕方も自由にできますが、不動産登記法では建築基準法のことは考慮しないので、建築できない土地を作ってしまうことがありえます。建築不可の土地は取引価格にも大きな影響がありますので、分割計画には注意が必要ですね。

2-5 お隣さんが『国土調査で筆界未定』

(筆界未定となっている公図)

お隣さんや周辺の土地が、国土調査(地籍調査)等の立会時に筆界確認が出来なかった土地所有者がいることが原因で筆界未定となり、このような場合には分筆できない土地となります。

筆界未定とは、地図・公図での地番表示が「1-1」+「1-2」+「1-3」+「1-4」+「1-5」など+表示(ぷらすひょうじ)になっている土地です。

一度筆界未定となってしまうと、国や市区町村の予算で測量を実施することは出来なくなりますので、関係者の負担で境界確定をやりなおすしか方法はなくなります。しかし、たとえ費用をかけ境界確定をやり直したとしても、また筆界確認が出来なければ、筆界未定のままとなり、”分筆ができない土地であること”に変わりはありません。

3 土地が分筆できないと困ること

土地が分筆できないと、今後の計画に狂いが生じ、非常に困った状態になります。この章では、実際に分筆できない土地はどの場面でどのように困るのかを解説します。

困る場面具体例
売却時土地の一部を分筆して売却できない
相続後納税資金確保の売却が出来ない、分筆して分けられない
建築時土地の一部を分筆して住宅ローンを組むことができない

3-1 売却ができない

分筆できない土地というのは、土地の一部を売却しようと思っても売却ができないということになります。売却ができなければ、売却資金で相続税の納税をすることも出来ないですし、先に買い替え先を購入していた場合などは、二重にローンを支払うことにもなりかねない状態になります。

3-2 相続で困る

分筆できない土地というのは、土地の東側を長男に西側を次男にという形で相続をしようと思ってもできないということになります。ずっと共有名義を解消できないまま処分ができない状態が続き、それぞれが有効活用したくても出来ない状態となります。

相続発生後は相続税の納税資金を確保のため土地の一部を分筆して売却することもあるでしょう。この段階で分筆ができないということが判明したのでは遅いということになります。相続前に判明したのであれば、まだ対策を打つ時間はあります。

3-3 建築で困る

分筆できない土地というのは、建築が出来ないことはないですが、建築敷地を分筆して住宅ローンを付けるということが多いため、土地の一部に建物を建築する場合には、ローンを組むことが出来ず、建築計画が進まないといった状態になる可能性があります。

 

以上のことから、分筆できない土地というのは、分筆できない土地であることを把握できたタイミングによっては、売却ができないだけでなく、納税資金の確保が出来ないことや融資がスムーズに行かなくなる可能性があるなど、重大な問題に発展します。

そこで、なるべく早く分筆できない土地であるということを把握し把握したらすぐに対処しておくことが重要です

次章では分筆できない土地の対処法を解説します。

4 分筆できない土地の対処法

分筆できない土地の対処法は、何らかの方法で筆界が確認できるようにすることです。

会うことができない人は会えるように調査します。筆界に紛争がある場合は、まず法務局に筆界を特定してもらうことが有効です。場合によっては裁判所に決めてもらいます。

対処法手続先依頼する専門家
筆界特定法務局、地方法務局(本局)土地家屋調査士、弁護士、司法書士
境界確定訴訟地方裁判所弁護士
戸籍調査市区町村長土地家屋調査士
近隣聞き込み現地 or 登記(履歴)住所地付近の住民土地家屋調査士
不在者財産管理人選任申立て家庭裁判所弁護士、司法書士
清算人、代理人選任申立て家庭裁判所弁護士、司法書士

4-1  筆界特定制度

筆界特定とは法務局の筆界特定登記官が、筆界の位置を特定してくれる制度です。筆界が特定されれば分筆できる土地になります。お隣さんが立会拒否や筆界認識に相違がある場合は、筆界特定制度の利用が良いでしょう。

筆界特定ではお隣さんの主張があるないに関わらず、こちらの主張とお隣の主張が異なっているかどうかにも縛られることなく、筆界特定登記官が客観的に筆界の位置を特定します。

多少の時間や費用がかかったとしても、相手の意見に左右されず分筆ができる土地になるため、利用件数も年々増加しています。

分筆を前提とする筆界特定の場合では測量から意見書の作成まで筆界に関する専門家である土地家屋調査士に依頼するとスムーズです。

筆界特定制度の詳しい解説記事はこちらを参照ください。
「境界線トラブルもこれで解決!筆界特定とは?筆特をわかりやすく解説」

4-2 境界確定訴訟

境界確定訴訟とは筆界を確定するための訴訟、裁判手続きのことです。お隣さんが立会拒否や筆界認識に相違がある場合、筆界が確認できない場合、境界確定訴訟を提起する方法があります。境界確定訴訟の前に筆界特定を申請することも多いですが、相手方が徹底的に争うつもりであることが分かっている場合など、最初から境界確定訴訟を起こすことも一案です。

境界確定訴訟では、原告及び被告が証拠提出、主張、反論などをそれぞれの責任で行います。裁判所は当事者の主張などに縛られることなく最終的に筆界を判断し和解(当事者間での合意解決)は認められていません。訴訟については弁護士に依頼します。

筆界特定を前もって行った場合には、その記録を裁判所が入手し判断の材料として活用される場合があります。

境界確定訴訟で筆界が確定すれば、分筆できる土地になります。所有権の範囲(所有権界)を定めるものではありません。

筆界と所有権界についてはこちらの記事を参照してください。
「筆界」「境界」の違いを解説!思わぬトラブルを防止・解決する方法

4-3 戸籍調査、不在者財産管理人選任申立て、清算人選任申立て、代理人選任申立て

行方の追跡調査戸籍調査、近隣聞き込み
行方不明が確定したら不在者財産管理人選任申立て
法人で行方不明清算人選任申立て、代理人選任申立て
海外居住外務省へ所在調査*行方不明者の親族から

お隣さんが行方不明の場合、まず戸籍調査を行うことで相続発生の状況や現住所を探し出すことができます。

戸籍調査や近隣への聞き込みなど調査を尽くしても見つからない場合、不在者財産管理人選任申立てという手続きがあります。これは、管轄の家庭裁判所へ不在者に変わって財産管理人を裁判所に選任してもらい、その財産管理人と筆界確認を行うという手続きです。

所有者不明土地が法人の場合には、清算人選任申立てや代理人選任申立てという方法で、こちらも不在者財産管理人選任申立てと同じく、家庭裁判所に対して申立てを行うことにより、不在法人・清算法人の事務を行うべき清算人、代理人等を裁判所に選任してもらい、筆界確認を行うという手続きです。

海外に居住していることが分かっているが所在が判明しない場合、戸籍調査により親族から聞き取りをするか、親族から外務省に所在調査をしてもらうことにより判明する場合があります。

コラム:残地分筆って認められるの?

残地分筆(ざんちぶんぴつ)とは、筆界確認ができない箇所を求積しない状態で一部のみを切り取る分筆の方法ですが、以前はこのような分筆のやり方も認められていましたが、現在は原則、残地分筆は認められません。平成17年より筆界特定制度が出来ていますので、この制度を利用すれば筆界の確認ができ分筆ができるからです。ごくまれに、出来る場合もありますが、原則認められませんので、分筆できない土地については、早急に筆界特定手続きを進めるべきでしょう。

法務省:筆界特定制度
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji104.html

 

5 まとめ

分筆できない土地とは、お隣さんとの筆界の確認が出来ない土地のことです。

分筆ができないと、土地の一部を売却できなくなったり、相続後に兄弟姉妹で分割できなくなったり、建築の際にローンを受けられなくなる可能性があります。

【分筆をできるようするための状況別の対処法】

状況対処法
境界立会を拒否筆界特定、境界確定訴訟
行方不明(自然人)戸籍調査、近隣聞き込み、不在者財産管理人選任申立て
海外に居住

戸籍調査で親戚をあたる、外務省所在調査

存在しない法人清算人選任申立て、代理人選任申立て
国土調査で筆界未定 筆界特定、境界確定訴訟

 

【対処法別の手続先と依頼する専門家】

対処法手続先依頼する専門家
筆界特定法務局、地方法務局(本局)土地家屋調査士、弁護士、司法書士
境界確定訴訟地方裁判所弁護士
戸籍調査市区町村長土地家屋調査士
近隣聞き込み現地 or 登記(履歴)住所地付近の住民土地家屋調査士
不在者財産管理人選任申立て家庭裁判所弁護士、司法書士
清算人、代理人選任申立て家庭裁判所弁護士、司法書士

分筆ができない土地でも、状況に応じた対処法を実施すれば、分筆ができる土地になります。

特に筆界トラブルや筆界位置の認識が相違することによりお隣さんから筆界確認の協力を得られない場合には、筆界特定制度を利用することが有効です。

筆界特定の申請は、自分でやることもできますし、弁護士・司法書士に申請だけ委任することもできますが、筆界に関係する資料の調査、測量及び分筆登記についての専門家である土地家屋調査士に依頼するのも検討してみてください。

以上が、土地家屋調査士が考える分筆できない困った土地の対処法です。状況によっては時間や費用がかかりますので、分筆ができない状態になったら早め早めに対処し、分筆できる土地にしていきましょう。

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