マンションを売却しようと土地の登記簿謄本を取得してみたけど、
・土地の所有権の欄に自分の名前が書かれていない
・建物の登記簿謄本のところに持分が書いてあるだけ
・敷地権割合って何?
・本当に敷地は自分のものなの?
生涯の財産として購入したマンションのはずが、本当に土地の持分も自分のものなのか気になりますよね。
安心して下さい。マンションの専有部分とそれに紐づく敷地部分はあなたのものです。分譲当時は土地の所有者はマンションデベロッパーの所有でしたが、これらを土地と建物を一体のものとして販売をしているため、今後も土地と建物をひとつの建物登記簿にまとめて表示しています。
敷地、敷地権、敷地利用権、敷地権割合、分離処分などなど、敷地権に関係する専門用語は難しく感じますが、その趣旨を理解してなるべく簡単に考えれば
どのようなものか理解できると思います。
敷地権はマンションだけでなく、2世帯住宅や、古いマンション、借地権・地上権付きマンションなど、様々な年代、場面で使われておりますので、その仕組み・役割について、敷地権の登記を専門とする土地家屋調査士が詳しく解説します。
是非、敷地権を理解して、今後の相続や売却に備え、安心安全なマンションにしていきましょう。
目次
1 敷地権とは
敷地権(しきちけん)とは、マンションの1室である”専有部分“と”敷地を利用できる権利“とが一体となって、くっついている状態のことです。
敷地を利用できる権利 ⇒ 敷地利用権 といいます。
専門用語が少々難しく感じるかもしれません。
ひとつずつ、簡単に理解して紐づけしていきましょう。
たまに、価格が安いマンションを目にして、これは掘り出し物だ!と思ったら、敷地利用権が賃借権や地上権だったということは良くある話ですね。
Aであって、専有部分と分離して処分することができないものBを言います。
(不登法44①九)
つまりは区分建物(マンション等)の所有者は、敷地権の設定があればその敷地も一体として自分の持ち物となります。また、区分建物の登記に記載される敷地権割合が所有範囲となります。
何故に敷地権が必要なのか、敷地権となる要件A・Bとは、また敷地に対する一定割合がどのように計算されるのか、一つずつ見て行きましょう。
1-1 敷地(しきち)
ここで言う、敷地とは、建物の所在する土地と規約で敷地とされた土地を言います。
大規模マンションなどは、少し離れたところにテニスコートや温泉施設や駐車場などがあり、これらは規約でマンション所有者の敷地とされていることがありますね。
1-2 敷地権(しきちけん)
敷地権(しきちけん)とは、マンションの1室である”専有部分“と”敷地を利用できる権利“とが一体となって、くっついている状態のことです。
敷地権という考え方は昭和58年に誕生しました。
この考え方が生まれた理由は
簡単に言うと、登記を簡素化して見やすくするためです。
高度経済成長期の日本では区分マンションが全国でどんどんと建設されていきました。
昭和30年代から昭和50年代までのマンションは、敷地権という概念は無く、専有部分と土地の共有持分権をそれぞれ販売するというものでした。
従って、100個の分譲マンションは、土地の登記簿が100人の共有持分となり、分厚い土地登記簿になっていきました。
当時の登記所は、コンピュータ化されていませんから、簿冊により紙で管理されていたため登記するのが大変な状態でした。
そこで、昭和58年に区分所有法が改正され、敷地権という概念が登場したのです。
(昭和58年5月21日法律第51号 昭和59年1月1日から施行)
改正前は、マンションの売買があるたびに、土地の持分を移転登記するため登記簿がどんどん増えていくことになりました。
改正後は、土地と建物がワンセットとなり一つの登記簿にまとめて表示されるようになったので、建物の登記簿だけ変更すれば良くなりました。
敷地権がない場合の土地登記簿(このような場合は区分建物の所有者が変わる度に登記の内容が増えてしまいます)
敷地権がある場合(このような場合は区分建物の所有者が変わっても土地の登記内容が増えません)
土地の登記が見やすくなることは次の効果に繋がります。
・マンション等の区分建物の所有者
→自分の土地を登記記録で探す必要がない
・土地の登記記録を見る第三者
→区分建物の所有者が土地の所有者(共有者)でもあることが公示される
・マンション等の区分建物の管理者
→建物の登記記録で土地を一元管理でき、管理が容易になる
1-3 敷地権の要件
区分建物の敷地が全て敷地権となる訳ではありません。
下記A・Bの要件を満たして敷地権となります。この要件A・Bを満たした時に敷地権の状態が発生し、その状態を登記するかどうか検討することになります。
A 敷地利用権(登記されたものに限る)
敷地利用権(しきちりようけん)とは、専有部分を利用するための敷地に関する権利です。
Aの要件は、区分建物のための登記された所有権、地上権、賃借権かどうかです。
・敷地利用権
→これは区分建物を所有するための所有権、地上権、賃借権、使用貸借権を言います。自身の所有物として、保有する所有権が一般的です。
地代を支払う地上権や賃借権、家族間での無償利用の使用貸借権なども敷地利用権となります。
・登記がされたものに限る
→登記がされたものに限定されますので、使用貸借権は除かれます(登記が出来ないため)。
→賃料が発生している地上権・賃借権でも登記されていなければ、登記された敷地権利用権と言えないので、敷地権にはなりません。
(土地の登記簿に登記された地上権)
区分建物のための登記のある所有権・地上権・賃借権であればAの要件を満たします。
B 専有部分と分離して処分することができないもの
Aの要件と合わせて必要なものが分離処分禁止に該当するかどうかです。 分離処分禁止は次の2つのケースが該当します。
・敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であること
・敷地利用権が単独で有する所有権その他の権利で、その者が一棟の建物に属する全部の区分建物を所有すること
マンション等の区分建物の所有者は前者に該当することが一般的です。
↓ こちらのは、2世帯などで良くある形で、土地単独所有で、家族が2階部分を区分所有しているパターンです。
分離処分は禁止されませんので、敷地権の状態にはなりません。
1-4 分離処分可能規約
規約により分離処分可能規約の設定をするなどBの要件を外せば敷地権としないことも出来ます。
大規模なマンションではなく家族所有の区分建物の場合、今後売却する予定がない場合など、分離処分可能規約を設定し、あえて敷地権化させない場合もあります。
(公正証書にした、分離処分可能規約の一部)
1-5 敷地権割合
土地の登記に敷地権と記載があれば敷地のうち敷地権割合は自分のものです。マンション等の区分建物の所有者は、敷地権の所有割合を決める必要があります。この所有割合を敷地権割合と言います。
この敷地権割合はどのように決まるのか、床面積割合が原則となります。規約でその割合を定めることもできます。新築分譲マンションなどは、販売当初から規約で割合を定めて、販売されていることがほとんどです。
区分建物の床面積は内側線で囲われた部分です。
従って、1棟の建物に属する各部分(専有部分)の床面積の合計のうち、自身の床面積の占める割合が敷地権割合となります。
(規約により床面積割合と異なる敷地権割合を決めることも出来ます)
(公正証書で定められた敷地権割合の規約)
コラム : 敷地権割合と固定資産税
敷地利用権の割合は、原則、床面積割合でこれと異なる割合を規約で定めることができます。固定資産税はその割合に応じてかかりますので、保有する床面積割合と敷地利用権との割合が合致してこないと、各専有部分によって、バラつきが出ることになりますから、少々不公平な結果となります。敷地権化していない共有持分を一部移転させて、敷地権登記する場合などは、これらも鑑みて持分移転割合も床面積割合とするのが望ましいと考えられます。
2 敷地権の登記
敷地権は要件が揃えば登記することができます。
1 新築時
→原始取得者(最初の取得者 一般的に不動産販売業者)が区分建物表題登記を行う
2 新築後
→敷地権が発生した時点の区分建物の所有者が区分建物表題部変更登記を行う
ことにより設定されます。
敷地権を登記するメリット・登記しないメリットも含め、見て行きましょう。
2-1 敷地権を登記するメリット
敷地権を登記するメリットは一元管理が可能となること、土地と建物の一体化による資産価値の増加可能性です。
事例1(敷地権を設定するメリット)
依頼者 : 管理組合、区分所有者
協業者 : 弁護士、司法書士、行政書士、不動産鑑定士、金融機関、法務局、土地所有者
昭和44年新築・鉄骨鉄筋コンクリート造・11階建、登記されていない借地権付きの分譲マンション(約100個)があり、各専有部分の価値向上のため敷地権化のマンションにすることとなった。
手順を簡単にまとめると、以下の通りです。
上記の手法を利用したことにより、各専有部分の売却価値が増加したと聞きます。
金融機関としても、中途半端な敷地利用権である登記されていない賃借権よりも、登記された所有権の状態でかつ敷地権登記されている状態の方が融資しやすいようです。
以後建物登記簿で一元管理できることとなり管理が容易になりました。
(敷地権の登記がされた建物の登記記録)
( 後で敷地権化し登記された土地の登記記録)
2-3 敷地権化させないメリット
敷地権化させないメリットは、引き続き土地は土地、建物は建物で自由に利用や処分出来ることです。このためには、分離処分可能規約の設定という手続きが必要になります。
事例2(敷地権を設定しないメリット)
依頼者 : 土地・建物所有者
協業者 : 公証役場、法務局
平成30年に新築した木造2階建の2世帯住宅を遺言及び将来の相続対策も兼ね、2個の区分建物として登記することとした。将来の状況変化に対応できるよう土地と建物とは敷地権として一体化させず、土地と建物を分離して処分できるようにした。
手順の要点は以下の通りです。
上記の手法を利用したことにより、土地を一部分筆して、他の目的へ利用できるほか、土地は土地で承継物の目的にするなど、土地と建物を一体化しないことにより、土地は土地、建物は建物で将来自由に利用や処分をすることができるようになりました。
敷地権として一体化している土地は、分筆をして切り離したとしても、みなし規約敷地といって、あくまでも土地と建物が一体化した状態となります。これでは、土地の一部を売却や贈与したいと考えても、別途手続きが必要になり煩雑になります。
(敷地権化していない、区分建物の登記記録)
2-4 敷地権の登記をする方法
敷地権の登記をする場合の具体的な方法を見て行きましょう。敷地権を登記する方法には2つあります。
1 新築時、区分建物表題登記と同時期に行う
2 新築後、区分建物表題部変更登記(敷地権表示)を行う
1 新築時
原始取得者(最初の取得者 一般的に不動産販売業者)が、引渡を受けた日から1カ月以内に申請をする必要があります。(不登法47①)
申請内容は、区分建物の諸情報のほか、敷地権に関する次の内容です。
・敷地権の種類及び割合
・敷地権の登記原因及びその日付
また、添付書類は所有権証明書、建物図面等のほか、敷地権に関する次の書類です。
(規約により規約敷地、敷地権割合、また一部敷地について分離処分可能規約を定めている場合)
・土地の登記事項証明書
(敷地権の目的の土地が申請の管轄と異なる場合)
(不登令 別表十二)
2 新築後
土地の所有権が一部移転した場合など、後に敷地権が生じた場合です。規約により敷地を設定した場合、分離処分可能規約を廃止した場合にも、新たに敷地権が生じます。
その時点の区分建物の所有者が、敷地権の生じた日から1カ月以内に申請をする必要があります。(不登法51①)
申請内容は、区分建物の諸情報のほか、敷地権に関する次の内容です。
・敷地権の種類及び割合
・敷地権の登記原因及びその日付
また、添付書類は敷地権に関する次の書類です。
(規約により規約敷地、敷地権割合、また一部敷地について分離処分可能規約を定めている場合)
・規約廃止証明書
(分離処分可能規約を廃止した場合)
・土地の登記事項証明書
(敷地権の目的の土地が申請の管轄と異なる場合)
(不登令 別表十五)
土地の敷地権の登記は、区分建物の登記を行うことで、登記官により職権で行われますので、手続きは不要です。
敷地権の登記には、どこまでが法定敷地になるのか(軒下など)、規約による敷地はないか、また添付書類の確認も必要です。
安心安全に敷地権の登記をするために、登記・調査の専門家である土地家屋調査士に相談することを推奨します。
2-5 敷地権の移転
敷地権の移転とは、敷地利用権の移転のことです。
つまり、登記された所有権・地上権・賃借権のことですが、売買や相続を原因として権利が移動したのであれば登記する必要がありますが、敷地利用権は建物の登記記録へ登記されていますから区分建物の所有権の移転登記に伴って、敷地権(敷地利用権)も移転することになります。
敷地権の目的である土地の登記は変更の必要がありません。敷地権割合で既に紐付きになっているためです。
売買契約、所有権移転登記については司法書士が専門家ですから、司法書士に相談してください。
2-6 敷地権の相続
敷地権の相続とは、敷地利用権の承継移転のことです。
区分建物を相続した場合は、区分建物と敷地権(敷地利用権)も移転することになります。
敷地権が登記された区分建物は土地の登記は変更の必要がありません。敷地権割合で既に紐付きになっているためです。
相続に伴う、所有権移転登記については司法書士が専門家ですからへ司法書士に相談し、相続税については税理士に相談しましょう。
3 まとめ
今回は「敷地権とは」について解説しました。
マンションの敷地である土地の登記に所有者の名前がなくても、建物の登記記録に「敷地権」と記載があれば自分のもの(敷地権割合部分)となります。
また、敷地権は土地の登記の膨大複雑化の防止のために制度化されたこと、売買等により移転した際や税金を計算する際にもマンションとその敷地(敷地権割合部分)は紐付きになっています。
マンションの処分や古いマンションを購入する場合、また管理組合として借地権マンションを敷地権化したいという場合は、まず専門家である土地家屋調査士へ相談すると良いでしょう。
土地家屋調査士法人えんでは、積極的にマンションの敷地権化を推奨しています。
是非、本記事を参考にしていただき、敷地権化したり、あえて敷地権化させなかったりと、これからも安心安全に引き継いでいける区分建物にしていきましょう。